【14-12】虎穴へ 1

【第14章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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「ここの守備が一段と薄いな……」


「確かここは、かつて敵将・オーズが守っていた区域でしたな」


 帝国暦383年1月初旬、ヴァナヘイム兵の墓群が完成し、鎮魂の儀式が終わるや、休戦も解消となった。


 帝国軍は8カ月前と同様、ケルムト渓谷に再びヴァナヘイム軍を追い込んでいる。


 8カ月前と異なるのは、戦線を維持できぬほど寡兵かへいになったヴァナヘイム軍を、圧倒的な火力を有する帝国軍が、押しつぶそうとしていることだろう。



 渓谷に迫ること23キロ――イエロヴェリル平原北端の城塞都市・フレヤを再び接収した帝国軍は、そこに総司令部を置いている。黄金獅子の大紅旗が、切るように冷たい北風にたなびいていた。


 フレヤ城郭の一室には、参謀部も置かれている。室内では、巨大な作戦図が広げられ、先任参謀・セラ=レイス以下、飾緒を胸に下げた者たちが見入っていた。


 そこには、彼我の戦力を示す駒の配置はもちろん、ケルムト渓谷の複雑な地形・高低差も正確に描かれている。


 抜け目のない彼らは、墓づくりの提案に使者を送り込んだ際も、谷底の模写を怠っていなかった。作戦図は、これまでにないほど精巧なものとなっている。



「敵司令官ミーミルは、兵員不足に相当苦慮しているとみえます」

 この日のカンファレンスも、アシイン=ゴウラ少尉が口火を切った。


 帝国軍は、先日のストレンド郊外での攻防において、ヴァナヘイム軍きっての猛将・アルヴァ=オーズを討滅した。エーミル=ベルマン・フィリップ=ブリリオート各隊と共に。


【13-21】悲報

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 平原に分散していたヴァ軍各隊は、ストレンドでの敗北を機に敗走に敗走を重ね、やっとのことでケルムト渓谷に滑り込んでいる。


 兵は前進すれば集まり、後退すれば散るもの――撤退の折に多くの兵卒が逃散した。


 主力の壊滅と、退却時の逃亡により、ヴァ軍は絶対的にその数が不足するようになっていた。


 当然のことながら、渓谷の布陣においても、戦死した将軍たちの受け持っていた区域は埋め切れていない。


 穴埋めをしようにも、この国は徴兵適齢の者がいなくなって久しい。やむなく、10代半ば以下の少年や60代以上の老人も戦場へ駆り立てることになった。


【14-1】掘っ立て貨車

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「情報によれば、ヴァナヘイム軍は新規補充兵の脱走が相次いでいるようです」


 アレン=カムハル少尉が、書面を繰りながら続ける。


「特に昨今、後方から送り込まれている若年兵と老年兵の士気が振るわず、配属早々に集団で行方をくらませている、とか」


 幼兵や老兵の逃亡は、防御線構築においてヴァ軍司令部の計算を相当に狂わせているようだ。


「そうか……」

 部下の報告に、レイスは口元を緩めたが、ほんの一瞬のことであった。


 それを視認したのは、副長・キイルタ=トラフ中尉とソル=ムンディル参謀見習いだけだった。



 それにしても、さすがはアルベルト=ミーミルである。崩れそうでいて崩れない――ヴァ軍布陣は、兵力不足ながら絶妙なバランスを維持していた。


 火力で片を付けようにも、渓谷の複雑な地形がそれを許さない。


 さらに、ミーミルはそうした地形に甘んじることなく、谷底においても堀や塹壕を築いているという。


 歩兵を突入させ、白兵戦で片を付けようにも、帝国軍は相当な犠牲を覚悟しなければならないだろう。



 ところが、驚くべきことに敵総司令官は、谷底に閉じ籠っていなかった。この期に及んでも、すきあらば渓間から打って出てくるのである。


 守りを固めるにも将兵が枯渇しているはずなのに、帝国軍の脆弱なポイントを見つけては、間道をつたって飛び出してくるのだ。


 そして、果敢に攻撃を仕掛けては、深追いすることもなく迅速に引き揚げていく。



 渓谷東端の先――いち村落に、ヴァナヘイム軍の急襲部隊を発見したのは、そのような折のことであった。


 帝国軍右翼は昨夏の大敗から再建の途上にある。そこで、左翼指揮所は、ロイ=ネフタン少将麾下の一隊を差し向けたのだという。


 エレン郊外で夜襲逆撃を被り、ケニング峠へ追い落とされ、それにドリス城下を焼き払われ――いままた、隙を見せた友軍が次々と潰されている。それらの仇を討とうと、少将は自ら勇んで出立したのだそうだ。



 これら一連の情報が、フレヤの帝国軍参謀部にもたされたのは、ネフタン隊出立後、3日が経過した後のことであった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


無数の墓標の群れを前に、新兵たちが恐れをなして次々と逃げ出していく――レイスの策に苦しむミーミル。ミーミルの反撃の一手が気になる方は、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイス・ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「帝国東征軍 組織図(略図)2」お楽しみに。


帝国軍の最新の組織図をもとに、これまでの物語を振り返りつつ、状況を確認します。

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