【14-1】掘っ立て貨車

【第14章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 ヴァナヘイム国王都・ノーアトゥーンの中央駅では、次々と進入する貨車、そこへの積み込みを待つ物資に加え、それらの関係者でごったがえしていた。おまけに汽車の煤煙ばいえんがブレンドされている。


「番号210まで全員乗ったな!?」

 喧騒のさなか、下士官の怒声のような掛け声とともに、客車の簡素な扉は勢いよく閉められた。


 ほどなくして笛の音が響き渡ると、車両はきしみながら、ゆっくりと動き出していく。


 薄い板を乱雑に張り合わせただけの簡易客車には、少年たちが押し込められていた。

「……幼年学校の壮行式で聞いた話とは、まるで違うなぁ」


 車両は少しずつ速度を上げていた。とげだらけの板間から、切るように冷たい風が車内に吹きこんでくる。


「……屠殺場に送られる豚や牛の方が、まだ大切に扱われるんじゃないか」

 ひしめき合うようにして、床板にしゃがみ込む少年たちは、口をつぐんだ。


 彼らは、北の都市デレア(先に戦死したアッペルマン少将の所領)での壮行式を終えると、野営を重ね、リンドの街まで延々と歩かされた。


 そこから、家畜や農作物運搬用の荷車に載せられ、ノーアトゥーンに入ったのである。



 王都の広場では、他の諸都市からき集められた無数の少年たちともども整列させられた。そこには、祖父と同じくらいの年齢と思しき老人たちも、多数集っていた。


 女神・エーシルのご加護があらんことを祈る――大神官の儀式が終わるや、彼らは再び中央駅へ戻った。そのまま、前線のトリルハイム城駅まで、このに委ねる身の上と相成っている。



 大神官様を間近で見られる。


 生まれて初めて汽車に乗れる。


 英雄・ミーミル将軍の指揮下で戦える――。



 郷里を発つ際、少年たちの期待に膨らんだ胸は、ここにきてしぼみつつある。


 広場のはるか先に立つ大神官様は豆粒より小さく、エーシル神にご加護を願うお言葉など、まるで聞こえなかった。


 板を張り合わせただけの粗雑な客車には、椅子すら設置されておらず、家畜出荷用の荷車の方が、造りは立派であった。


 そして、ミーミル将軍は、先日イエロヴェリル平原南方で帝国軍に敗れ、味方の各隊は再び谷底に逃げ込んでいるという――。



 車輪の擦れる音が容赦なく車内に響きわたる。


 粗いレールから生み出される振動は、ポイントに至るやいっそう激しくなり、少年たちの首を大いに揺さぶった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ついに、少年や老人を戦場に送り始めたヴァナヘイム国が心配な方、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


名もなき少年兵卒たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「埃を払う」お楽しみに。


ヴァ軍の後備あとぞなえは、徹底抗戦の姿勢を貫いた。


友軍の退避と反撃準備の時間を稼ぐべく、帝国軍の進軍をにぶらせる。


彼らは、ドリス城塞北門で、帝国軍第7旅団へしたたかに出血を強いた後も、己の役割を忘れなかった。街道脇の農村や古城に籠っては足止めを強い、機を見てそれらから果敢に突出するなど、第4・第5旅団を散々悩ませた。

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