【14-11】風花 下

【第14章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

====================



 風花かざはなが舞うなか、汽車は間もなくトリルハイム城駅に到着しようとしていた。


 王都の中央駅を滑り出した客車には、15歳未満の少年兵や60歳以上の老兵がところ狭しと押し込められている。


【14-1】掘っ立て貨車

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428239585319



 彼らは、ヴァナヘイム国北方諸都市よりノーアトゥーンにき集められたあと、前線に送り込まれるだけの身の上だった。トリルハイム城で降ろされた後は、ケルムト渓谷内の各隊へ振り分けられるのだ。


 まるで、帝国の機械工業化における流れ作業のようであった。


【5-3】異国かぶれ ②

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860082203362



 客車は板を張り付けただけの安普請やすぶしんであり、貨車と呼んだ方がふさわしかった。内部には椅子すら設置されておらず、少年も老人もみな膝を突き合わせて床に座っていた。


 汽車が減速していく――彼等は終着駅が近いことを悟った。


 すきま風が容赦なく吹きこみ底冷えするなか、どこからともなく精気の無い声が車内に響く。

「……お、おい、外を見てみろ」


 その声に応じるように、歳若い兵士が壁面の木戸を上にスライドする。


 換気口のような、さして大きくもない窓が開く。そこにガラスなどはめられておらず、たちまち寒風が車内を席巻する。


 寒いじゃないか――苦情が、年配兵の口々から漏れる。


 しかし、それらはたちまち静まってしまった。



 彼らの目は、窓外の光景に釘付けになっていた。










 木枠の向こうには、延々と墓場が広がっていた。






 風雪のため視界は利かないが、数百、数千……いや万以上あるのではないか。



 荒削りの白木で造られた墓標が、丘の稜線まで続いている。その下に眠るのは、先達の兵卒たちであろう。



 曇天のもと、横に傾いているもの、前のめりになっているもの……墓標の波間に見え隠れする偶像は、エーシル神だろうか。


 女神は、殺戮の場に送られる者たちに「これ以上進んではならない」と、語りかけてくるようにも見える。


「……」


「……」


「……」


 少年兵たちは、眼下に広がる墓標の海を無言のまま見つめていた。


 寒さとは違う理由のため、身体の震えがとまらなかった。



「……ワシらもあそこに眠ることになるのかな」


「ああ……そう遠くない将来、あの墓標の1つになっているんだろうなぁ」


 老兵たちは、笑いにすらならない乾いた吐息をひとつ吐くと、口を引き結んだ。



 冷気を車内に満たしたまま、汽車はいよいよ速度を落としていく。レールのポイントに差し掛かったのだろう、車輪の振動が車内の重い空気ごと搭乗者たちを混ぜ返した。



 間もなく終点のようだ。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


帝国軍による墓造りは、ヴァナヘイム軍新兵の士気を根こそぎ阻喪そそうせしむるものだった――セラ=レイスの遠大な計略に寒気を覚えられた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「虎穴へ 1」お楽しみに。


「情報によれば、ヴァナヘイム軍は新規補充兵の脱走が相次いでいるようです」

「特に昨今、後方から送り込まれている若年兵と老年兵の士気が振るわず、配属早々に集団で行方をくらませている、とか」


「そうか……」

アレン=カムハル少尉ほか部下たちの報告に、レイスは口元を緩めたが、ほんの一瞬のことであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る