【13-1】来着

【第13章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

【世界地図】航跡の舞台※第12章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330648632991690

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 帝国暦383年10月16日、アシイン=ゴウラ少尉以下、飾緒しょくしょを胸に下げた若者たちが、参謀部へと続く廊下を慌ただしく進んでいた。


 2カ月前、作戦頭脳を入れ替えた帝国東征軍だったが、ケニング峠での惨敗をはじめ、アルベルト=ミーミル率いるヴァナヘイム軍を相手に負けっぱなしであった。


【11-10】朝の軍議に戻って 下

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【12-15】転進

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 ヴァーラス城をはじめ、これまで陥落させてきた諸城塞は次々と奪還され、東岸領との国境にほど近いこのグンボリに、総司令部は逃げ込んでいた。


 プレートに「参謀部」と殴り書きされた扉を、ゴウラは勢いそのままに開け放つ。よどんだ空気が出迎えたが、青年少尉はそれを振り払うように報告した。



「本国より、野砲および材木が届きました!」


「来たかッ」

 この日も長椅子で惰眠をむさぼっていた先任参謀・セラ=レイス中佐だったが、その報告を耳にした途端に跳ね起きた。



 部屋から勢いよく外に飛び出した主従は、長い廊下を駆け抜ける。そして階段を1段飛ばしで下り、渡り廊下を複数経て屋外に抜けた。


 城塞の中央広場には、貨物運搬用の馬車が次々と到着していた。おびただしい数の荷台には、帆布はんぷに覆われた野砲が2台ずつ載せられている。


 その背後では、さらに大きな荷車を引いた多頭きの馬車も続々と到着している。荷台には、ロープで縛られた角材が隙間なく積まれていた。


 新式野砲80門および角材1万本――東都ダンダアクは、現場からの要求のすべてを送り届けてくれたのである。


「さすがは、上級大将閣下だッ」

 だのだの、東征軍オーナー・アルイル=オーラムを常日頃、口汚くののしっている紅髪の先任参謀も、この日だけは敬うことにしたらしい。


 ――それだけ、ヴァーラス城塞はムンディル家の姫君の身柄を、脂身……いけない、上級大将閣下は喜ばれたということね。

 副官・キイルタ=トラフ中尉の灰色の瞳の色は冴えない。


【11-19】無心 下 〈第11章終〉

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 材木はともかく、野砲の輸送に帝国軍は神経を使った。これほどの数の新式砲である。帝国軍の後方を攪乱かくらんしてきたブレギア騎翔隊が、襲いかからない理由がなかった。


 そのため、帝国側は輜重しちょう隊に当初予定の3倍を超える護衛を付けていた。もはや輸送隊ではなく、1個連隊に近い規模である。


 さらに、道中も常に複数の斥候騎兵を走らせては、周囲の様子を探らせるなど慎重を期したのであった。


 いわば、「及び腰進軍」であったが、それでも道中10門ほどはブレギア騎兵の手に落ちるものと、東征軍参謀部は覚悟をしていた。



 ところが、結果として帝国側が恐れた事態は生じなかった。


 帝国軍の慎重な対応が功を奏する以前に、ブレギア襲撃部隊が輸送隊に近づくような気配すら感じられなかったのである。


「道中、騎翔隊が全く出現しなかったのは、どうした訳でしょうか……?」

 次々と到着する馬車の誘導を手伝っていたトラフは、被害状況の報告が皆無であることに、思わず首をかしげた。


 しかし、紅毛の上官はあかい寝癖を立てたままあおい目を輝かし、野砲の群れに見入っている。副官の疑問は、彼の耳に届いていないようだ。



 砲兵は徒歩での移動のため、輜重隊より数日遅れる見込みだが、順次こちらに向かっているという。


「よおし!逃げるのもここまでだッ」

 レイスは、白手袋をはめた右のげんこつで、左のてのひらを叩いた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


新式野砲と角材をどのようにレイスが作戦へ落とし込むのか気になる方、

帝国輸送隊襲撃からブレギア騎翔隊が手を引いてしまったのを思い出された方、


【12-8】君臣師弟

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ブリクリウたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「東都の朝 上」お楽しみに。


「昨夜は、お楽しみあそばされましたか」

「……」


帝国宰相嫡男の私邸に出仕したターン=ブリクリウは、恒例の朝の挨拶を申し上げた。

しかし、主人のアルイル=オーラムは、まだ寝間着のままであり、肉団子のような腹は、いくぶんか縮んだようにも見える。


ブリクリウは、狐のような両目をさらに細めた。

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