第5話

 その日の夜、ベットの上で何気なくスマホを見ていると、紗希からLINEがきた。

紗希>今日ありがとう。どうだった??

自分>家に上がってお母さんと話したよ

紗希>まじか!どんな話したの?

自分>どうやって目が見えなくなったとか?そんな話

紗希>そうなんだー。佳奈には会った?

自分>うん。ちょっとだけね。

 今日の山崎の笑顔が頭に浮かんだ。

紗希>今日は届けてくれてありがとね!

自分>次からは自分で行きなよ笑

紗希>わかったよ笑笑

 そんなやりとりをしながら、今日の出来事を思い出す。

「またきてね…か…」

 無意識にボソっと漏らした自分の言葉に、自分がまた行きたいと思っていることに気付かされる。

自分>やっぱり次も僕が…

 ここまで打って、慌てて消した。

 ほんとに何を考えているんだ僕は。今日はたまたま紗希に頼まれただけじゃないか。別に仲良いわけでもない僕が行ったところで迷惑だろ。でも…。また山崎さんの顔を思い出す。

自分>じゃあおやすみー

 充電器にスマホを挿し、裏側にしてベットの隣の棚に置いた。電気を消し、毛布をかぶる。

 なんか背中の辺りがムズムズする。どうにかしようと何度か寝返りを打ったが治らない。深呼吸をして、心と体を何度か落ち着かせようとしたが、いまいち効果はない。

 結局この日はうまく寝付けなかった。


 翌日の土曜日は特にやることもなかったので、近所の本屋で小説を買って読んだ。表紙に惹かれて買ったのだが、中身は大して面白くなかった。日曜日は特にこれといって何もしなかった。

 僕の週末は大抵このような感じだが、まだ土曜日に本屋に行っているだけましだ。ひどい時、というか2回に1回くらいは一歩も外に出ない。

 月曜日からの生活は思いの外うまくいった。紗希がクラスメイトなので、少しだが話せる人もできたし、お弁当は1年生の時と変わらず俊と食べることになった。これでとりあえずは安定した学校生活は送れそうだ。

 でも、この1週間毎日同じ席に目がいってしまう。1番左の後ろの席。山崎さんの席だ。あの様子だと学校には来れないだろう。来たところで授業も受けられるか良くわからないし、テストなんてもっと難しいだろう。

 そんなことを1時間に1回は考えていた。


 金曜日。6時間目は数学II。河童みたいな頭の教師が念仏のように計算式を唱える。覇気を感じない授業に僕はいつのまにか寝ていて、気がついたら終わりのチャイムが鳴っていた。

「智也!放課後空いてる?」

 ホームルームが終わり、ロッカーに教科書をしまおうとしているところで、紗希が声をかけてきた。

「本屋行こうと思っでたけど、別に明日でも行けるかな」

 まだ体に少し残っていた眠気のせいか、特に何も考えずそう応えた。

「やった!じゃあこれよろしくね!」

 紗希は僕に大きな封筒を渡して、

「これはお礼」

 そう言って後ろに隠して持っていたジュースを僕の足元に置いた。

「頼んだよ!持つべきものは友達だね!」

 紗希は廊下を走って、階段を降りていった。

 僕はぼーっとしながらも、自分が今持っている封筒を見た。

『山崎佳奈さん』

「ぁぁぁぁああああああ!!」

 やられた。僕は心の中で叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が僕を見えなくても〜盲目の少女との恋〜 松井 諒 @matsui__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ