飛騨高山の雪に埋もれた日常が描かれています。
雪は、たまに降る分には綺麗でわくわくさせてくれるんだけれど、これが毎日来る日も来る日も積もりつづけるとうんざりしてくる。その閉塞感に満ちた日常。
重くのしかかる雪の描写が秀逸です。白くふわふわして美しいはずの雪が、灰色でぼってりしていて、その重さに、もう息がつまるようです。
そんな中、主人公は図書館で借りた本を返しに車で出発します。
たったそれだけのことが、つらい。いや、たったそれだけのために雪の海を渡ることこそが、つらい。
そして、やっと辿り着く図書館で主人公が見つけたものは何か。
はっと目が覚めるような短篇でした。
雪の描写が綺麗に切り替わるんです。錯視みたいに。
舞台の高山がいっきに好きになる作品でした。
いえ、冒頭では何だか「住みにくそうで」「天候の変化が激しく」「車がつかえない人は生きていけない」「観光客にはいいけど住民には……」みたいな書かれ方なんですけど、だからこそ、終盤の一変、雲が晴れるような変化は本当に美しくて。薄明光線(通称天使の梯子)を見たかのような美しさ。
寝起きの気だるさ、図書館の紙の匂い、すれ違った親子連れの何となく遠い距離感、久しぶりの会話の懐かしさ、色々感じられる作品です。
冒頭でも書きましたが、雪の描写の変化が本当に綺麗なんです。芸術品、一枚の絵のよう。白さにどこか神々しささえ感じます。それももちろん、前半の「にばめる」描写があってこそ、なのですが。鈍色からの白、への変化が本当に綺麗で。
心洗われますよ。
よかったらいかがですか?