55.異世界で家をつくります

 それから俺たちは何事もなく街に戻った。


 道中、やはりモンスターの数は減っているように思えた。そして、野営中にアイレさんに絡まれること、絡まれること。

 普段の控え目な態度はどこへいったのだというくらい、全力で絡まれた。

 何って、食についてである。

 ホットサンドを出せば革命的だと言い、どうやってつくったのか聞きたがるし、豚でつくったなんちゃってハムに食いついては目を輝かせてキラキラした表情で突撃してくるし。

 彼女はかなりアグレッシブなタイプのグルメのようだった。

 聞けば、俺たちを尾行する依頼を受けたのも俺たちについていけばもしかしたら俺たちがいつもおいしそうに食べているものを食べる機会があるかもしれないと思ったからだそうである。


 それからフレンチトーストやプリン、ケーキなんて作って……。

 俺のつくる食事には原材料として肉や卵や牛乳が大量に使われると聞いたアイレさんの絶望顔はやばかった。人間ってあんなに一瞬で真っ青になれるんだね。


 まあ、この世界、肉や卵や牛乳はモンスターから採取するしかないから非常に高価だもんね。俺たちの場合は、遠征ついでに大量にモンスターからゲットして俺の『無限収納』に入れているから問題なく使用できているけど。

 すっかりファナさんの舌も肥えているから、食材確保のための遠征なんてのもしていたりする。


 そこで俺が「畜産をやったらいいのでは」なんてつぶやいてしまったのがいけなかった。食いついたアイレさんに畜産とはなんぞやということを聞きつくされ、そして彼女は帰路の途中で走り去って行った。

 大急ぎでギルドマスターに報告をしてから、チクサンを達成してやるのです!と意気込んでいた。


 これまではモンスターが大量にいることもあり、広く土地が取れないうえに飼っている家畜が襲われるという背景もあり畜産をするには至らなかったようだけど、これからモンスターも減っていくというし、どうやらこの世界発の畜産農家エルフが誕生しそうだ。


 アイレさんが飛び出してから、2日後。

 家に舞い戻った俺たちは、門番さんに熱烈歓迎を受けていた。


「無事戻ってきてよかったぁあああ!!!」


 久々のことで気を抜いていた俺は門番さんに頭を撫でられる……どころかぎゅうぎゅうと抱きしめられるという失態をおかした。ぐえ。く、苦しい。

 息もできないし、大男にすっぽり抱きしめられるという状況に自分の体形の情けなさが際立って思わず涙目になっていると、ファナさんが門番さんを殴ったことにより無事解放された。



「人の旦那に抱き着くんじゃねえ!!」


 しかも、怒ったファナさんにギュッと抱きしめられる。あ、いい匂い。ここが天国ですか。


「す、すまん。安心したらつい」


 素直に謝る門番さんに溜飲を下げたファナさんであったが、周りの人にヒューヒュー言われて、しかもちょうど通りがかったリンネルさんが居たもんだから顔をさらに真っ赤にして俺の背中に顔をうずめてしまった。

 なにこれかわいい。


「やっぱり、ウェディングドレス用意しておいて正解だったじゃない」


 リンネルさんが得意げに笑った。さもありなん。


「結婚式の立会人は私に任せてくださいね」


 クレト様が微笑んだ。――ありがたい。


 ◆



 その後は、役場とギルドに訪れた。

 ひっそりとギルドマスターと村長にだけは『悪魔』を倒したことを伝える。これからモンスターが減っていくだろうと。


 俺たちは宿を出て、新居を建てることにした。

 街から少し離れた魔の森にほど近い地点だ。ついでとばかりに街の拡張作業の依頼を村長さんからされた。

 これから俺たちは趣味程度に街を広げながら、冒険者らしい活動も続けていく。


 にょきにょきと家を生やしながら、俺は隣に立つファナさんを見つめる。

 ちょうどファナさんも俺を見ていたみたいで、目が合って思わずにへらと笑ってしまう。


 本当、この世界に来てどうなることかと思ったが、まさか使えないと思っていた念動力にこんなに感謝する日がこようとは。


「ファナさんと言う家族ができて、本当に俺、幸せです」

「私もだ」


 愛しいファナさんのため、俺は心を込めて――異世界で家をつくります。

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