あとがき

 作者の思考をつらつらと、そういうのがわかってもいいな、という方はどうぞごゆるりと、駄文にお付き合いくださいませ。


 古来、童話や伝説の中で、林檎には様々な役割が与えられてきたようです。

 その果実が実際に何を指したか、または当初から果実が記述されていたかはおいておいて、現代まで知られる伝承の中に、林檎は姿を現します。


『旧約聖書』において、アダムとイヴの行いはよく知られる通りです。また童話における『白雪姫』も然り。

 神話の中で、といえば、林檎を司る女神が現れます。北欧神話の女神イズンまたはフライアは林檎を守り、神々に不老不死を与えます。ヴァーグナーの《ニーベルングの指環》にも出てくる女神です。

 しかし良いことばかりではなく。女神の果実である林檎は、神々の命を守るとともに、災禍の種でもあったようで。トロイア戦争を引き起こすパリスの過ちは、女神エレスが投げた林檎が原因。


 こうしてみると(一部の神々もひどい目に遭っているものの)パリスも白雪姫も、林檎に巻き込まれた「人間」はひどい目に遭っているなぁと思ったり。道徳めいたことを言うつもりはないけれど、邪まな行いにはそれなりの代償。


 長短両面を持つ林檎と、それを司る女神。色々な象徴的意味もあったようです。有名なボッティチェリのプリマヴェーラに描かれた彼女らが手にする林檎。女神は一体、何を考えていたのでしょうか、と想像が膨らみます。


 一方で、やはり古来から「口づけ」もまた、不思議な力があるようで。

 親指姫は口づけのおかげで生まれ、いばら姫は目を覚まします。ピュグマリオンは命を得て、カラスは若者に姿を戻し……


 不思議なものです。ディズニーの白雪姫も、楽劇ニーベルングの指環のブリュンヒルデも、アモーレ(キューピッド)とプシュケーの恋物語も、ともに元々はそうではなかったお話が、口づけにより目を覚ますように変わっている。きっとこれは、さまざまな話にある「口づけ」の力から来ているのだろうなぁ、と思ったりするわけです(ブリュンヒルデはもしかしたら神話のどれかのヴァージョンにもキスによる目覚めがあるかもしれませんが)。



 さらに一方で面白いと思うのは……

 たとえばいばら姫も白雪姫も、悪い魔法にかけられたおかげで王子様に会えたのだなぁ……。



 物語の初めに、書いている途中で、最後に来るところで、そんなこともつらつら。

 大好きな秋と海を中心に、神話や伝説、童話好きから生まれたお話かもしれません。

 構想の初めで決まっていたクライマックスが書きたくて、読んでいただいているのに励まされて、走ってこられました。よかった、あの終盤数章までちゃんと来られて。



 さて、書きたかったことを全部書いたかわからないけれど(笑)この辺で。


 参考資料は他にも色々ありますが、差し当たり下記をあげておきます。

 ブルフィンチ「ギリシア・ローマ神話 付 インド・北欧神話」野上弥生子、岩波書店、1978年改版。


 秦野啓、 司馬炳介「魔法の薬―マジックポーション」、新紀元社, 2002. (部分読み)


「黄金の林檎」

 https://ja.wikipedia.org/wiki/黄金の林檎


「Apple」(どなたが作っているページか分からないのが残念ですが)

 http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/apple.html


「ケリュネイアの鹿」

 https://ja.wikipedia.org/wiki/ケリュネイアの鹿


 ラピスとユークレース王が倒れた時の参考。


「意識障害・失神 」 社会福祉法人 恩賜財団 済生会

 https://www.saiseikai.or.jp/medical/symptom/syncope/


「臨床法医学」

 http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~legal/images/k0406360400prn.pdf


 女神の林檎が原因なので、死後の死体変化にあまり厳密にはしたがっておりませんが。


 ラピスとクエルクスの旅は、ひとまずこれでおしまいです。

 どこかまでまた、二人がひょっこり現れる時まで。


 番外編『凍えるほどにあなたをください』『白月』もお楽しみいただけましたら幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/Mican-Sakura/collections/16816452219399474161


 お読みいただいた方のコメントを拝読するのが、とても楽しく、とても好きです。その都度、励まされ嬉しくなっております。



 さてこの物語、カクヨムさんで公開してのち、数ヶ月。改稿を重ね、また戻ってまいりました。

 どこかで本になったらいいな、という思いによる改稿。忌憚なきご意見を賜れましたら幸いです。



 二人の旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楽園の果実(改稿版) 蜜柑桜 @Mican-Sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ