先を生きた者が、あとに続く者の幸せを願う姿を、対話でなく手紙をとおして描いた物語です。ともすれば感情がぶつかり合う対話でなく、ひとり静かに、文面と行間を読むことのできる「手紙」という手法を用いたのは、実に効果的に感じました。
本文の描写もさることながら、全三編の構成にも、目を見張るものがあります。導入部は前置きに徹していて、続く「手紙」へ、すっといざなってくれます。核となる「手紙」は、劇中での読み手の感情が差し挟まれず、あたかも現実に生きる自分が手紙を読んでいるかのような、そんな感覚がわきました。結びで語られる主人公の理解は共感しやすく、心地の良い読後感が残ります。
手紙を閉じたとき、今の自分を見つめ直そうと穏やかに導いてくれる、そんな作品でした。