第63話



「ま、つまりはバトルロイヤルがわたしの全てって訳じゃないんですよ。負けたら人生終わる訳じゃなくて、まだまだ続くんですから。下手な事するよりは穏便に済ます方を選択しますよ、普通は」




「…………成程」


 それもこのバトルロイヤルの特徴的なルールの一つだろう。




 『願いを叶えられる』というのは魅力的に違いないが、それで人生が終わる訳じゃない。終わって、それでハッピーエンドという訳にはいかないのだ。




 だからこそ人生を優先する。勝ち組らしい意見である。




「まあ先輩みたいなおもっくそ負け組だったら、そりゃ何ふり構っていませんでしたけど。良かったですね、先輩。わたしが人気者で」




「………………」


 すっごい一言多いな、こいつ。ネタがあってもなくても煽る気満々じゃん。




「さて、バカ話はともかくとして、一応話しておきましょうか」


 ようやく俺を煽るのにも飽きたらしく、舞島は一度聞きたかった話をし始める。




「それと先に誤解を訂正しておきますけれど、わたしは麗佳先輩の事は普通に嫌いですよ?」




「……三枚も同じCD買ってたのに?」


 乃雪ですら二枚なのに……、よっぽどじゃねーの、それ?






「しょうがないじゃないですか! 特典は最低二枚は買わないと揃いませんし、CDケース割れるなんてさほど珍しくないんですから、保存用として買い過ぎと言うことはないはずです! ――――でなくて!」


 舞島はそこで声を荒げる。




「わたしは作品と作者は分けるタイプなんです! だから詩羽先輩の作品がどれだけ好きだったとしても、詩羽先輩自身は嫌いなんですよ!」




「ああ、そういう……」


 そう言われればなんとなくだが、納得しなくもない。




 時に作品を評価する場合、その作り手の人格に引っ張られてしまうという話は過分にして聞く。




 例えば作者の鼻につく発言に引っ張られて、好きだった作品が一転して嫌いになってしまうというファンもいるという話だ。


 これは作り手とファンの距離感が近くなりすぎた事が原因で起こり始めた事象だが、昨今のSNS全盛期であってそれは珍しくもないと言える。




 ならその逆、作者と作品を完全に切り離せるファンがいてもおかしくはない。極端でこそあるが、ある意味純真とも捉えられるかもしれない。




「分かってますよ、自分が異質だって。だから周囲には秘密にしてるんですよ。言っとくけれど、先輩は特別なんですからね」




「ほう。最後のとこだけもう一回言ってくれ」




「…………きもっ」




「…………」


 いや、勿論俺が悪いけどね? なんの衒いもなく、直球でキモがられたら幾ら俺でもちょっと傷つく。俺がまだ人間の心を保てていた事に安心する!




「これを一番知られたくないのが詩羽先輩です。今まで散々な事を言ってきましたからね。幾らなんでもこれが知られれば、わたしは生きていけませんよ」




「……それで? なんでお前は麗佳の事が嫌いなんだよ。詩羽とのオーディション会場で何かあったのか?」




「……ほんと先輩は話が早くて気持ち悪いですよね」


 いや、まあ、そりゃそこまで知られてたら気持ち悪いのも無理ないだろうけどさ。そこんところのクレームはぜひとも妹に言ってほしい。




「先輩の言うとおり詩羽先輩との出会いはとある番組オーディションの会場です」


 そして、舞島は件の過去を語り始めた。

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「注目度=戦闘力」となるバトルに勝利するため、スクールカースト最底辺の俺は《炎上》する @toichi01

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