第25話 美少女さんを偲ぶ会ログと、その前後 #美少女さんオンリー
トマトと鶏肉ときのこなどを炒め煮にして食べる料理がある。ある時、その料理を美少女さんが作っている様子をツイッターに上げていた。忙しい時の作り置き料理として重宝しているらしい。
以前から俺も適当に食材を入れてこの料理に近い物を作っていたので、「これ正式名称がある料理なんだ!」「一石さんもこれ好き? おいしいよね」といった会話をした記憶がある。
ある日、その料理がテレビで紹介され、作り方が紹介されていた。「美少女さんに名前教えてもらった料理をテレビでやってる」とツイッターで書いたが、誰からも何ひとつ反応はなかった。
この料理の話をする相手の美少女さんは、その頃には既に亡くなっていた。
ツイッターで「美少女さん」と書くと、エゴサしてイイネする美少女さんは、もうここにはいないことを噛み締めた何気ない日。
今こうして書いていて気づいた。料理の名前は忘れてしまった。
新型コロナの蔓延防止及び、もとよりの俺の出不精や、飼っているねこの「ずっとそばにいろ」という引き止めにより、人と会う機会が激減していったここ数年。
2021年末頃から、ツイッターの音声会話機能(スペースという)で、一人で喋るだけの場を設けた。誰かを呼んで話すことも出来る。108日間連続で喋り続けた。
声を発する機会がなくなっている自分が声を出すため……というのが目的のひとつではあったが、しばらく会っておらず喋っていない友人知人と話したいので、呼び出して会話をしようというのも理由の中に含まれていた。
例えばその「しばらく会っておらず喋っていない友人知人」の中に、美少女さんもいた。
毎日スペースをやっている最中に、美少女さんと親しく俺の友人でもある中野さんが喋りに来ていて、ある時期「すごく大変だ」「今は友人の風呂から通話してる」とトリッキーな忙しさを伝えていたことがあった。「週明けにすごい発表があるよ」と言われた。演劇に出るとか何かの絵を描いたとか、中野さんの活動の告知なのだろうなと思っていた。
すごい発表は、美少女さんが亡くなっていたという報告だった。中野さんとスペースでしばらく話していた内容とつながって、言葉を失いながら、中野さんや周りの人の心中を思いながら、発表された経緯を読んでいた。
一人で喋るあの場に、美少女さんも呼んで久しぶりに話したいなと思っていた。
開始当初からそう思っていた。
急に誰かと会えなくなったり話せなくなったりすることは人生で往々にしてある。だから話そうと思って始めたし、開始当初ならまだ間に合った。
もう話せなくなってしまった。
今こうして、ここまで書いていて思い出した。
美少女さんが教えてくれた料理の名前は、カチャトゥーラだ。
振り返ることで思い出すこともある。思い出す情報には、様々な感情がくっついてくることもある。
折りに触れ、皆も思い出してみてください。
本日、2022年5月22日に浅草橋の東京文具共和会館にて、『美少女さんオンリー』が行われる。昨年11月3日に亡くなった美少女さんを題材にした同人誌などを頒布するオンリーイベントだ。10サークルほど参加するらしい。
自分はサークル参加はしないものの、この機会に少しだけ書いてみた。おかげで忘れていたことが湧き上がってきた。
ついでに、『美少女さんを偲ぶ会』に参加したときにツイッターに上げたレポのまとめも以下に載せておく。特に編集もせずにそのまま。そういう思い出が書き残されている。
友人でコスプレイヤーで造形師でモデルで博識なTRPGャーで長身のイケメンの美少女さんが11月3日に亡くなった。俺をビンタしてた人でもある。その美少女さんの四十九日ということで美少女さんを偲ぶ会が行われ、渋谷に足を伸ばして来ました。入場するなり場内では「帰って来たヨッパライ」が流れていた。
中野さんが登壇し、「皆さん美少女って死んだんですよ」というこの場の誰も知らなかった衝撃の情報からスタート。事前アンケートで集まっていた様々な思い出や大喜利回答をもとに、皆で美少女さんをネタにして笑って過ごしていました。偲ぶ会に呼んで欲しいゲストで来た回答。「美少女さんによくビンタされていたねこの下僕の人(一石楠ナントカさん)」。
なおこのアンケートを読んでいた際に「一石さんもなんか喋る?」とステージ上から中野さんに呼ばれ、一応手を上げて行こうとしたんだけど、入れ違いに壇上から下りてきた他のゲストの方が俺と中野さんの間にちょうど挟まって俺の姿が向こうから見えず「反応ないしいっか!」って締め切られた流れでした。
そのあと虚空チェキや美少女さん写真集などの物販タイム&来場者歓談タイムが挟まれた(もちろん歓談はみんなマスクしてだよ)。虚空チェキとは、何もない空間をチェキ撮影したら美少女さんが「俺も混ぜろよ~」って映るんじゃないかと思ってみんなで虚空を撮る有料イベントです。一枚200円。良心的。
歓談タイムを満喫していた俺は、「さっき俺をゲストに呼んでってアンケ出してた人、たぶん俺のスペース聞いてる人だよ」「会場のどっかにリスナーがいるってことだよね」など友人と話していたら、壇上の中野さんから「一石さんのビンタチェキ撮りたい人いるから来て」って呼ばれて「は~?」って行った。
年単位で他人と会ってない(今日会った友人も数年ぶり)というおじさんが、何十人もが見ているステージ上でビンタされ待ちの顔を晒すというハードルの高い出来事が発生し、「でも美少女さんこれ絶対面白いと思うよ」と後で友人に言われて「そりゃそうだな」ってゲラゲラ笑いました。いいビンタでした。
なおビンタチェキをお願いしてきた方にはその後「一人で喋る狂人聞いてます」と言われ、「やっぱりあのゲスト希望アンケ出したの狂人リスナーじゃねえか!」ってなりました。美少女さんを偲ぶ会に行ったら、うら若い女子にビンタ顔をお願いされたので美少女さんありがとう。礼を言うことなのかこれは?
俺は「美少女さんを偲ぶ会にはきっと美脚の人がいっぱい来るから行くよ!」って前から言ってて、会場には本当にえげつないほどの美脚の人が様々なピッタリしたものを履いていた。俺が座った席がアクセ物販の真隣だったので、次々に美脚の人が並び「本当に横に美脚の人が来ると困る」っておろおろしてた。
美少女さんを偲ぶ会、終了時に会場に流れた曲はウクレレのイントロですぐわかった。
知久寿焼「死んぢゃってからも」(ミュージックビデオ)[Music Video] https://youtu.be/fUwy87Sabxs
死んぢゃってくことをちゃんと過ごした人
ちゃんと生きた人
あなたのいないこのさびしさは
ぼくのたからもの
去り際に中野さんに一言だけ「本当にお疲れさまでした。そんじゃまた、バイバイ!」って挨拶した瞬間に、この曲の最後の「それじゃあまたね。バイバイ~♪」の部分がかぶって、なんかこう、お別れを出来た気がして帰ってきました。
俺は実は美少女さんとちゃんとお別れできていない気がしていて、亡くなってからもその話は俺発信ではどこでも基本しないようにしてて、周りの人が話す言葉を聞いてきました。俺の中ではなかなかの損失で、だけど会えないことでわあわあ泣くほどの距離感でもなく、時間をかけてたまに思い出したりして。
じんわりこの気持ちとずっと向き合っていくんだろうなあと考えていたので、今日は珍しく一人で真正面からその気持ちと向き合える日だったので、皆と離れて一人で席について深呼吸して、笑って、目をつぶって、「美少女さん死んじゃったんだなあ」ってなりました。
偲べてよかったです。みんなありがとう。
なかとばきじ プロ物書きの格ゲー観戦及びネット上での立ち回り(仮) 一石楠耳 @isikusu
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