表現力が桁違いの本格派ダークファンタジー

【物語は】
滅びた国の竜の騎士たちである、ストラウスについて語られることから始まっていく。ストラウスの伝統に則り、死を覚悟していた主人公。しかし、彼は生きており9年前の”あの日”のことを思い出していた。その日の戦のことが、美しい表現によって描かれている。例えば竜の唸り声(鳴き声)を歌と表したり、風を支配など。とてもオリジナルティを感じる作風である。ただ、この作品の中での”歌”とは他にも意味合いがある。序章では竜と主人公である竜騎士が大勢の敵へ戦をしかける様を、壮大なスケールで描いている。一体どうして、そんな中で生き残ることが出来たのか。それは戦略なのか、運なのか、それとも強さなのか、覚悟の違いなのか。読み進めていくうちに、彼の新たな目標と目的、戦いの結末などが見えてくる。

【登場人物の魅力】
主人公は、伝統を大切にし戦いこそ全て、死を恐れないという狂戦士。しかしながら、心はちゃんとある。優しさも情もあるのだ。国の王に忠誠心を持ち、竜一体と自分のみで戦地へ赴く。齢17にして、どんなに志が高くても恐怖を感じないというのは、相当精神が鍛えられていると思う。そして、そういう種族であるという、説得力がある。戦地に赴く途中で、家族を眺めるシーンでは、自分が戦場で命を落とした後のことを思い描いている。彼は自分が生き残って種を増やすことよりも、種族全体の繁栄のことを考えているのだ。だからこそ命を落とすことを躊躇わず、敵国にとって脅威なのではないだろうか。そして、一緒に戦地に赴いた竜は、彼を認めると共に信頼をしている。二人で戦うことが出来るのは、信頼関係あってこそだったのではないかと感じた。この竜は自身の最期に主人公へある想いを託している。主人公がその後も自暴自棄にならずに生きているのは、この竜との約束もあるのではないだろうか。

【物語の魅力】
序章から書き込みの凄い物語である。表現力も凄いが、世界観が分かりやすく、オリジナルの世界観を作るための言葉選びにも優れている。ファンタジーや、戦記物をあまり読んだことのない人でも分かりやすく、残酷描写はあるものの、イヤなリアルさではないのは表現の為だと思われる。なので、残酷描写が苦手な人でも、これなら読むことが出来るという人はいるのではないだろうか。死という言葉一つとっても、そのまま死という表現がなされていることがあまりない(恐らく、分かりやすさの為に使われることはあっても)。なので、ミステリーなどで表現される残酷な描写とは根本的に異なる。そこに加え、心理描写が丁寧であり、行動描写も丁寧なのでどのようにして戦っているのか想像しやすい。その戦いの場面では、何故そう戦うのかも分かりやすく、臨場感もでている。とても拘りと作品愛を感じる物語である。

【物語の見どころ】
序章が終わり、本編に入ると主人公の人生の幕開けという感じがする。仕えた王を失い、信頼関係にあった竜を失い、死の栄誉も得られなかった主人公を生かすのは『約束』である。ここで年齢が書かれている。つまり回想が終わり、現在に戻るという事である。一気に雰囲気は明るいものとなる。『約束』を果たすためには、年月が必要だったと想像する。そして、一人では叶わなかったのではないだろうか?彼は日々の中で仲間が出来、竜の言葉にあった”戦略”というものがいよいよキーワードになっていく。ここからが本当の戦いとなるのではないだろうか。たった二人(竜なので一匹が正しいかもしれないが)で戦っていた時とは違う、戦略あっての戦いが繰り広げられると思うと、ワクワクする。おそらく、戦友との友情関係や信頼関係が築かれることもあるだろう。この先、どんな展開が待ち受けるのかとても楽しみな物語である。

是非、あなたもお手に取られてみませんか?
丁寧に書きこまれ、壮大さを感じる本格派のダークファンタジーです。

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