#59 9階探索

 9階の敵は、影蛇、病犬、ファンガス、蚊、マッドゴーレムの5種。

 そのうち影蛇は、カースワードキル。病犬、ファンガスはマジックミサイルで対処できる。

 面倒なのは群体でくる蚊だが、こちらはジーナが焼いてくれることで、どうにかなった。


 問題は、ジーナさんが言っていた通り、マッドゴーレム。

 確かにこの敵は骨が折れた。

 やつらは不定形でどこにでもいる。

 穴の中に潜んでいることも多く、その上周囲の岩を取り込んで打ち出してくる非常にやっかいな敵だ。

 俺とクロモリは防御能力が非常に低い。

 なので、前からの攻撃はジーナに、後ろからの攻撃はペルノさんにカバーしてもらうことになった。

 2人防御に回るので、もれなく攻撃は俺とクロモリの担当になる。

 クロモリは非常に前のめりなアタッカーなので、自然と並びはジーナ、クロモリ、俺、ペルノの順になった。

 俺としては、後ろを守ってもらいつつ、全体のサポートに回れるので、非常にやりやすいのだが、困ったことが一つ。


 クロモリの後ろを歩くと、非常に生足が気になる。

 

 なるべく下をみないようにしているが、動いているうちにどうしても視界に入ってくることがある。

 そのときの動揺といったらもう!

 普段ならどうということもないが、忘れたはずのものが、幾度となく掘り返されそうになる。

 おかげで俺はたびたび集中力を切らせながら、ついていくことになった。

 

「ジミチさん、きました!」


 ちらっ。


「……了解」


 俺が今朝購入した念動リングは、かなりの重さまでつかめる。

 マッドゴーレムは泥のゴーレム。核以外不定形だが、念動でくるんで掴んでしまえば動かすことができる。

 俺はマッドゴーレムを念力で捕まえると、もう一体のマッドゴーレムにぶつける。

 柔らかいので敵にダメージはないが、こうしてまとめると次の工程で格段に効率が上がので大事な作業だ。


「硬化!」


 俺が複数体まとめたところで、クロモリさんが泥の塊を固める魔法をかけた。

 泥のゴーレムは固まってしまえば、体を上手く動かすことができない。

 無力化した後で、ジーナさんとペルノさんが核を打ち抜けば、事は終了である。


「すごーい、今までにないくらいDPが稼げてます」


 秘策、泥は固めてしまえばいいじゃない戦法。

 クロモリさん発案ではじまった戦法だが、殊の外うまくいっていた。

 俺が束ね、クロモリさんが硬め、ジーナが割る。

 この一連の流れで、+500DP。

 クロモリさんとしては、最高効率の稼ぎなんだとか。


「ジミチさん、すごいDPですよ。本当にパーティ組まなくていいんですか?」


 ちらっ。なにもないなにもない


「……いや、いいよ。俺は普段稼いでるから、3人でもらうといい」


「も~、なんでそんなに意固地なんですか!」


 クロモリは不満顔、ジーナ&ペルノさんは、不思議顔だ。

 当然だろう、俺だけが赤字を垂れ流している。

 

「今のところマッドゴーレムでしか役立ってないしな。ほとんどクロモリの後をついていってるだけだから、気が引けるよ」


「そんなことないですよ、さっきからサポートもしてくれてるじゃないですか」


 このパーティにおいて、俺はほとんど暇だった。

 マッドゴーレムのとき以外は、クロモリのあとをついていくだけ。

 やることがない。

 なので、暇を見つけてはちょちょいと念動で支援をしていたのだが、それがことのほか3人からは好評のようだった。


「あぁ、おかげでとてもやりやすい。君はサポートに向いているな」


「私も攻撃を弾いてもらえて助かりました。先輩、2人のサポートに必死で、私側の攻撃スルーしてますからね。たまにヒヤリとします」


「ほら、君は十分に貢献している。気にせずDPを受け取ってはどうかな? 今からでもパーティは再構築するぞ」


 こちらでは、パーティを組む専用のアイテムがある。

 それを使えば24時間、働きに応じてDPが分配されるのだが、俺は今朝から頑なに断っていた。

 DPはこちらの世界の人間にとっては、のどから手が出るほど欲しいものだ。

 それを頑なに受取ろうとしない俺は、こちらの人間からすると、さぞかし奇妙に見えることだろう。

 しかし、パーティは”密室ガス作戦の存在を隠し続ける”のに、非常に都合が悪い。

 俺はどうあっても、受けるつもりはなかった。


「じゃあ、気が向いたらお願いします」


「……そうか。君は変わっているな」


「ジミチさんって、変にいじっぱりですよね」


「生活できてるからね。そんなにDPに切羽詰まってないだけだよ」


 俺の頑なな様子を見て取ったのか、パーティの話はそこで打ち切りとなった。

 その後は、4人でさくさく倒しながら、2時間。

 単純作業の繰り返しになったが、不思議と全員が夢中になって敵を倒す時間が続いた。


「2時間でだいぶ安定してきましたね」


 9Fで狩りを始めてから、いくらかの時間で俺たちは連携が築けていた。

 この4人はバランスがいい。

 アタッカー片重のクロモリ、万能タイプのジーナ。ガードのペルノ。そしてサポートの俺。

 ジーナさんの言う通り、2人だったら手数が足りず9Fは危なかっただろう。

 しかし、この4人ならば、まだまだ先が狙えるくらいには、性能が合致していた。

 1人が失敗しても、他のメンバーがサポートに回れる余裕もある。


(怪我するなら、このへんかな)


 今日本来のミッションは、行き過ぎるクロモリにストップをかけること。

 このメンバーは優れているが、下を目指すことが目的じゃない。

 今日限りでもあるし、余裕があるうちにミッションは達成しておきたかった。


 俺はこの辺かなと、ジーナを見る。

 すぐさまジーナは察してくれ、頷いてくれた。


「あれ、これって」


 しかし、そのタイミングでだった。

 ペルノさんが何かを発見し声を上げる。


「下に降りる通路じゃないですか?」


 げっ、このタイミングでか。

 これはまずい。


「ちょうどいいですね。ボスいきましょう!」

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D&C(ダンジョンズ&カタログズ) ~運動音痴で生き物殺すのが苦手な俺でもダンジョン攻略できますか?~ 東雲Penギん @Pen-gin

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