現在
そうして全てが終わり、私も普通の少女に戻ってから早くも5年が過ぎようとしている。
それはつまり、少女の時代も終わったということでもあった。
1年ほどの社会復帰プログラムの後、特別選抜枠で大学に編入し、そこももう卒業してしまった。
この5年間はあっという間に過ぎていったが、正直にいえば、ほとんど印象に残っていない。
変わらない日常。
平和で、退屈で、物足りない日々。
最初の数年はまだ環霊との戦争は続いていたはずなのだが、私の、こちらがわの世界の方にその影響が出ることはほとんどなかった。
それでも、私はその断片を探してなんとか情報を集め続けていた。
そうした中、大学に入ってすぐの頃に、一つのインタビュー記事を見つけた。
対環霊戦争の最前線で戦い続ける少女についての記事だ。
1年前まで嫌というほど毎日見続けてきた顔が、見たこともないような表情をしてそこに写っていた。
穏やかな笑顔、しかし私から見れば明らかにその裏にはやつれた姿が見える。
軍はいったいなにをやっているんだ。
ひと目見ただけでまともな状態でないことはわかるだろうに。
だがそれ以上に、インタビューの内容は私を打ちのめした。
そこで語られた、彼女の戦う理由。
環霊との戦争が始まってすぐに、彼女の家族はそれに巻き込まれて命を落としたのだという。
そしてあのド派手な鷹の刺繍の入った赤いスタジアムジャンパーは、兄の形見であったとも。
彼女は戦っている。今も、最前線で、失った家族のために。
彼女は語る。
戦争は変わったと。
断鬼乙女ではなく『兵士』となったことでシステムは整備されたが、今の自分はそれに馴染めず、まるで片翼がもがれた状態であるかのようだと。
それでも、戦うしか無いと。
悲愴だった。
自分がそこにいないことが、そこにいないことを選んだ事実が重くのしかかってくる。
一刻も早く、この戦争が終わってほしいと思った。
だが戦争が終わったら、彼女はどこに行くのだろう。
私よりもさらに遅れてこの『平和な世界』にやってきて、彼女はどこに居場所を見つけるというのか。
わからない。
それが怖くて、私はまったく間逆な、ずっと戦争が続けばいいのにみたいな、残酷なことさえ考えてしまった。
それはなんの救いにもなりはしないのに。
それからも数年が過ぎ、もう戦争も終わり、世界はすっかり元に戻ってしまった。
私の両親は共に健在だが、今は親元を離れて、一人暮らしをしながら働いている。
就職先は小さな会社の事務員であり、断鬼乙女として環霊と戦った経験などなにも活かされていない。あえてそういう生き方を選んだ。
私は、普通の人間になろうとしているのだ。
なんとかしてそこに馴染もうとしているが、今も、断鬼乙女だった時のことをよく思い出す。
宿舎の夢を見て、戦いの記憶が蘇り、そんな世界では私の目の前にはいつも……。
帰るべき場所がないまま、それでもぼんやりと地に足をつけようともがいている自分を、あの頃の自分はどう思うだろうか。
そしてあの、自分の前を走り続けていた彼女は……。
そんなある日、私は一つの噂を聞いた。
ド派手な鷹の刺繍の入った、赤いスタジアムジャンパーを着た少女が、仕事を探して歩き回っているというものだ。
そして行く先々でトラブルを起こしているとも。
いてもたってもいられず、私はその噂めがけて走り出した。
あの頃となにも変わらない。
いつもどおりの死にたがりのあの少女を必死で追いかけて、支えて、生かしてやらないといけない。
結局僕も、そうしてしか生きることができないのだ。
まあ、いいさ。
それしかできないのなら、また、そうやって戦っていこう。
実に不本意だけど。
『そうやって戦っていこう』と、僕は言った シャル青井 @aotetsu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます