寝起きがすこぶる悪い夫の話

三河得

夫の寝起きがすこぶる悪い

 朝、夫の寝起きがすこぶる悪い。

 生活リズムがほぼ同じーーそれでも夫の方が出勤までの間ゆっくり出来るから、自分の活動に合わせて起こす。

 まずは適当に声掛け。

「何時に起きるの?」

「7時ー」

「もう7時だよ」

「嘘だー」

「さらに言うと7時は過ぎてる」

「まじかー……」

 洗濯機を動かしたり、朝食の用意をしたり。そんな中での声掛けだから実際に夫が起きているのかはわからない。


 一通り作業をして、寝室に戻ってくると夫は寝ていた。


どうしたら手早く目が醒めるものかと、いろいろ試してはみた。

 肩を揺すぶってみたり、布団を剥いでみたり、ハグをしてみたり。夫にハグをするのは嫌じゃない。むしろ望むところなので勝手に満ち足りた気持ちになるのだけど、離れようとすると「もっとー」と甘えられてしまって、離れ難くなる。

 そんな時は寝室に置いてあるぬいぐるみを与えてみる。コンビニくじで手に入った、たぬきのぬいぐるみを抱かせてみると「口がない。嫁じゃない」と言った。

 それならばと口の部分に手を入れられるサメのぬいぐるみを抱かせると「お尻がない。嫁じゃない」と言った。あんたは人体を穴の数で判断するのか? と思ってしまう。


 ある日は背中に手を入れて状態を起こすことで強制的に目覚めさせてみた。

 要介護かな。なんて思いながら起こしたのに対して、夫は「うぉーっパラマウントー」と言っていて、思わず笑ってしまった。


 起きる前に妙なことを口走ることも多々ある。急に「ニ◯ンちゅう(NHK教育の猫のキャラクター名)!」と叫んだこともある。

「ニ◯ンちゅうがどうしたー?」

「ニ◯ンちゅうどっか行け!」

 急に名前を呼ばれて追い払われるなんて、なんてかわいそうな。

「どうしてニ◯ンちゅうを追い払うの?」

「嫁が嫌いって言ってた!」

 ……確かに「ニ◯ンちゅうは声がおっさんなのに赤ちゃん服みたいなの着てる」と言ったことはある。あるけれども……。ごめんニ◯ンちゅう。


 一頻り遊んで朝食の準備も出来た、というところで夫が動き出す。

 洗面をしてダイニングにやってきた夫と朝食を済ませる。

「どうしてニ◯ンちゅうを追い払うの?」

 トーストをかじりながら、悪戯っぽく笑って聞いてみる。夫はきょとんとしている。

「今日、ニ◯ンちゅうどっか行け! って言ってたよ」

 その日に夫が言っていた寝言(?)の報告をするのが、最近の日課になっている。

「え? 知らない」

 本当にわからないという顔で、困惑する夫。このやりとりは何度も繰り返しているけれど、目覚める間際の発言に対しての記憶がどうやら無いらしい。

「言ってたよー」

「知らない知らない」

 知らないと言われても事実なのに。

 そう思いながら朝の出来事を笑い話にして、今日も1日が始まる。

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寝起きがすこぶる悪い夫の話 三河得 @Toku_mikawa

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