第3話
馬琴が向かい側の席に座ると
「緑茶かオレンジジュース何飲みます?」
「(何でその2つなの?)…緑茶で。」
ごく、ごく
「!魔力が…」
体の中の魔力が異常なスピードで回復を始めている。
「…驚きました。魔法生物だけでなく、薬草学の技術まで…」
少し粉っぽく感じたが味に違和感は無かった。
「それは良かった。最近はこれに力入れていてね。客人に試してもらってるんだよ。」
「私で実験したんですか!?客なのに!?」
客で魔術の実験をする人間のどの辺が温厚なのだろうか。
やはり、噂は当てにならない。
とても危険な人物ではないーーー
「でもさ」
「ッ。」
ぞわり、と彼が一言、言っただけで空気が変わる。軽く首を絞められている感覚。馬琴の身体が今すぐ逃げろ、と訴えていた。
スルリ
視線を少し後ろに向けると先程の魔法生物が背後にいた。
逃げる事はできない。今自分にできるのは…。
「客は客でも招かれざる方だと思ってるんだけど、ね。」
この状況で先制攻撃は恐らくできる。
しかしそれでここから逃げるとは思えなかった。
今自分にできる最善策は正直に、誠実であること。
魔術師として駄目な考え方かもしれないが、ほかに道がないのだ。
「今回はわ、我々の組織『黒鬼門』への勧誘に来ました。」
一瞬の静寂、が終わると
「はあ、またかよ。失礼、さっき、数時間前に襲われてね。」
「い、いいえ!仕方ないですよ。襲われたんじゃ、ね。はい。」
うまく言葉が回らない。何を、何を言えば。
『いやいや。こちらの方こそ失礼した。さっきは完全に私が悪かった、申し訳ない!』
「!!」
「…気づかなかったな。いつから聞いていました?」
「君を怒らせちゃった時だね。本当に申し訳ない。よいしょ、っと。」
声に違和感を覚えた途端、猫の口から男が這い出てきた。
細身の色男。数々の女性を虜にしたであろう顔はとても軽薄そうで。
しかし、それが本心ではないのは感じる。男から放出される魔力からは表からは全く感じられない隙のなさが伝わってきた。
「使い魔を起点にした転移……転移魔術は初めて見ました。あなたの使い魔は今もこの基地の前に立っている筈なのですが。あれで俺を分断に成功したと思わせたわけですか。」
「正解、本命は彼女の体内で待機していたんだよ。良く分かったね。これが時方 天起が超得意とする転移魔術です!謎が解けたご褒美に今度教えてあげましょう。」
「黒鬼門に入れば、ですか?」
「というか何無断で人の体内に使い魔入れちゃってるんですか。」
「…第一印象は確かに最悪かもしれない。馬琴さんもついでにごめん。…けど、お願いだ!どうか、どうか我々と一緒に来てくれないか?」
時方はいきなり真剣な表情に変わり非を詫びた。
魔術師に誠実など似合わない。が、目の前の魔術師の態度に嘘は感じられず、何か焦っている様に見えた。
「…うーん。でもなぁ。」
「無礼を働いた人間が頼めることじゃないのはわかってる。でも、君がかのマカゴル・モーラから受け継いだ『願いを叶える魔術』が我々には必要なんだ。」
伝説魔術師は見つけられない くりまん @160101330
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