エピローグ つわものどものゆめのあと
あれから、三ヶ月の月日が過ぎて――八月。盆地である山形は、春の麗らかな気温からあっという間に初夏をすっ飛ばし、例年通りの真夏日が続いていた。
茶の間でテレビを見ていた村山ナツは、画面が切り替わったのを受けて、扇風機のスイッチを強から弱に戻す。お茶を継ぎ足し、万全の態勢でテレビに齧りつきはじめる。
中継されていたのは、インターハイの剣道競技・団体の部の決勝戦である。
まだ決勝進出校の準備が整っていないのだろう。画面にはコートだけが映され、実況解説がラジオのように流れていた。
『今年の決勝戦は、注目の一戦ですね』
『ええ。昨年は山形の大江実業に敗北を喫した熊本の九州玉龍館学院ですが、彼女たちは先週開催された竜王旗で優勝してきてますから。気合いが入っていますよ』
『そうですね。さらに対する決勝進出校が、初出場にして初優勝の可能性があるということで、会場内も興奮がピークに達しているようです』
『一、二年生だけで構成されただけでなく、選手全員が、変わった剣道をするんでしたか』
『そうなんです。そんな彼女たちのことについて知るために、ある方をゲストにお呼びしました。昨年のインターハイを制した大江実業高校の監督をされております、内村桜花先生です』
『ちっ、面倒くせえ……どうも』
『さ、早速ですが、内村先生。彼女たちは、どういった剣道をするのでしょう?』
『予選を見てきた者なら分かると思うが、奴らの試合は、既存の剣道の概念で見ない方がいい。簡単に言えば、世界大会で各国の優秀な選手を引き抜いてきたみたいなもんだ。革命だよ』
『革命……ですか』
『ああ。もし世界の選手たちが奴らと同じことに気がついたら、荒れるぞ。……クク、百鬼夜行の如き世界の化け物たちと、日本のサムライとの頂点争いになるかもな』
『なるほ、ど……? あっ、ただ今、両校の準備が整ったようです。それではまず、赤の襷をつけた高校から、改めて紹介いたしましょう。選手の半数が春から剣道を始めたばかりという中、かの王者・大江実業を下して全国出場! 明日の個人戦にも、選手の全員が出場しているという、今最も注目すべき高校です! 赤――山形県代表・伊氏波高校!』
うぇへへ、ふぉへへ……と、だらしなく涎を垂らしていた李桃は、ついにベッドから転げ落ちてしまった衝撃に目を覚ました。
強かに打ち付けた側頭部をさすりながら、枕元の目覚まし時計を見る。五時半。既に予定の起床時刻は過ぎていた。
自室の静寂の中、李桃はおそるおそる首元に触れる。そこには包帯も、傷痕もない。
一体、どこからが夢だったのだろう。カレンダーは怖くて見られない。
逃げるように視線を這わせ、その先に『燃えよドラゴン』のケースを見つけた時だった。
「――モモちゃん、起きてるかしら? 遅いからお邪魔させてもらっているのだけれど。今日から総体に向けた早朝稽古が始まるの、忘れてないわよね?」
控えめなノックに続いて聞こえた大好きな人の声に、李桃は飛び起きた。寝坊に焦りながらも、「みんな外で待ってるわよ」の言葉に、思わずにやけてしまう。
「ごめんヒメちゃん! 今すぐ準備するから、十分だけ待ってぇ!」
元気いっぱいに声を上げて、李桃はクローゼットを叩き開けた。
――サムライガールズ・レボリューション!(了)――
サムライガールズ・レボリューション! 雨愁軒経 @h_hihumi
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