第三話 お嬢様、狩りを楽しむ

「ここまでくれば、平気かな?」


 草原を離れ、てくてく歩くこと三十分ぐらい。

 私は薄暗い森の入り口に立っていた。

 マップによれば、ここは「白霧の森」というらしい。

 第二陣でここまで到達しているプレイヤーは少ないらしく、人気はほとんどなかった。


「さーて、蛇が出るか鬼が出るか……」


 大剣を構えて待っていると、やがて出てきたのは人型をした緑の魔物だった。

 こいつはもしかして、ファンタジーの定番のゴブリンかな?

 生で見ると、犬歯の生えそろった顔は結構な迫力だ。

 気持ち悪いなぁ、早く倒しちゃおっと!


「せいっ!」


 思いっきり大剣を振り下ろすと、あろうことかゴブリンはそれをかわした。

 むむむ! ザコの代名詞のくせに生意気だぞ!

 続けざまに斬撃を放つが、どうにもうまく当たってくれない。

 なるほどな、AGIに全然数字を振ってない弊害か。

 そりゃあ動きが遅ければこうなるんだろうけど、なかなか面倒だね!


「おっと!」


 今度はゴブリンの方が攻撃を入れてきた。

 ゴツンッと音がするが、HPは減らない。

 さすがにゴブリン程度では、このアイアンフルセットの防御力は突破できないようだ。

 けど、このまま好き放題されてるのも気に入らないね!


「だったら……これでどーだ!」


 大剣の切っ先を、さながらスコップのように地面に埋めた。

 そしてゴブリンが近づいてくると同時に引き抜き、土を巻き上げる。

 よだれを垂らしたいかにもヤバい奴って感じの顔に、土の塊がヒットした。

 

「グシャアッ!!」

「よし!」


 視界を潰されたゴブリンの動きが、大きく鈍った。

 その隙を逃さず、STRに物を言わせて大剣をフルスイングする。

 ――ズバアンッ!!!!

 一刀両断。

 ゴブリンの首が一発で切り飛ばされた。

 おおう、こりゃゲームじゃなかったらスプラッタだね!


「やっぱり力こそジャスティス!」


 思いっきり脳筋なことを言っていると、ポーンッと音がしてウィンドウが立ち上がった。

 ゴブリンを倒したことで、レベルが上がったようだ。

 一発で首飛ばしちゃったから実感ないけど、ホントならレベル1では勝てない敵なんだろうな。

 見た目がボロっちいわりに、所持金も経験値もウサギさんの3倍近い。


「お? また出て来たね」


 ステータスの確認を終えたところで、またゴブリンが出てきた。

 しかも、今度はさっきと違って二匹いる。

 私の運が悪いのか、それともエンカウント率がもともと高い設定なのか。

 どっちにしても、やることはさっきと変わらないけど!


「そりゃっ!」


 視界を奪い、首を刎ねる。

 慣れてしまえば、何のことはない作業だった。

 すべて倒したら、森の中を歩いてゴブリンを探す。

 まさしくサーチアンドデストロイ。

 このちょっと殺伐としたノリ、RPGというよりはFPSとかTPSみたいな感じがする。

 ま、ここまで圧倒的にやれるのは序盤のうちだけだろうけどねー。


「レベルアップー! いやー、快適だねー!」


 サクサクとゴブリンを倒し続けて二時間ほど。

 私のレベルは5まで上がっていた。

 普通、MMORPGというのはレベルアップが遅い。

 これだけの時間でここまで上がったのは、やっぱり装備パワーのおかげだろうね。

 あと、狩場を追い出されたのも結果的にはよかった。

 あのままウサギさんを狩っていても、効率は悪かったに違いない。


「ポイントは……やっぱ極振りだなー」


 レベルアップで獲得できたポイントは全部で20。

 それをSTRにすべて注ぎ込む。

 AGIにも少しは入れようかなと思ったけど、MMOで半端は禁物だ。

 だいたい器用貧乏になっちゃうからね!


「お、新しいスキル増えてるじゃん!」


 これまで「なし」と表示されていたスキル欄。

 味もそっけもなかったそこに、新しい文字が浮かび上がっていた。

 

 <キリングゾーン>

 最大MPの半分を消費して発動する持続スキル。

 効果時間60秒間、クールタイムは1時間。

 発動中はクリティカル率が30%上昇する。

 

 かなり重いけどめっちゃ強力そうなスキルだ!!

 序盤にこんなの取れちゃっていいのかな?

 すぐに取得条件を確認すると「自身より5以上レベルが高いモンスターを、50体以上連続して一撃で倒した場合に取得可能」って書いてある。

 あー、これは条件整えないと厳しい奴だね。

 私みたいに攻撃に全振りして、なおかつ装備もレベル以上に強力なものがなきゃ駄目だ。

 上級プレイヤーとのつながりがあれば行けそうだけど、そうじゃないと無理っぽい。


「というか私、50体もゴブリンを倒してたんだ。もっと少ないと思ってた」


 それだけ、今回の狩りが快適だったということだろう。

 この大剣を売ってくれたおじさんには、あとで感謝しておかなきゃ。

 これがなきゃこんな勢いは無理だ。


「リアルだと……あー、もう夜か」


 お昼を食べてすぐにプレイを始めたのに、もう夕方の七時近くになっていた。

 そろそろログアウトして食堂に行かないと怒られそうだ。

 うちのメイド長、何かと厳しいからなぁ。

 基本的に何でもできるし優秀なんだけど、口うるさいのが玉に瑕なんだよね。


「えーっと、ログアウトボタンは……ん?」


 木陰から赤いゴブリンが姿を現した。

 革の鎧を着ていて、他のゴブリンからするとずいぶん文明的な装いをしている。

 もしかして、レアモンスターってやつかな?

 近づいてみると<ゴブリンヒーロー>と表示された。

 ゴブリンのくせにヒーローとは、なかなかイカした奴だ。


「むっ!」


 私がとっさに身構えると、ゴブリンヒーローは棍棒を振りかざして勢いよく突撃してくる。

 ほんのわずかにだが、棍棒の先が赤いオーラを帯びた。


「うっ!」


 ゴブリンヒーローの攻撃をよけようとした……のだけど。

 いかんせん、私はAGIが低かった。

 かわしきれないどころか、お腹のど真ん中に攻撃を貰ってしまう。

 

「痛ッ……ってあれ、大して減ってない!」


 さすがはアイアン装備!

 明らかに強攻撃っぽい一撃を喰らったというのに、私のHPは二割も減っていなかった。

 これなら、有り余るほど持っているポーション類で対応できる。

 ものすごい数を買った初心者応援セットのうち、いくらかは売らずにとっておいたんだよね。


「どりゃあっ!」


 今度はこちらから、目つぶし攻撃を仕掛けた。

 するとあろうことか、ゴブリンヒーローは手にした棍棒で土を払い飛ばす。

 むむむ、動きが格段に良くなってる!


「しょうがないなぁ……持久戦でいこうか」


 そう言うと、私はゴブリンヒーローに向かって笑いかけた。

 単純作業にも飽きて来たし、少しは歯ごたえ欲しいところだったんだよねー。

 ふふふ、じっくり遊ぼうかゴブリンヒーロー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る