第四話 VSゴブリンヒーロー

「なるほどね……ちょっとわかって来たかな」


 戦いが始まってから十分ほど。

 大まかにではあるけれど、ゴブリンの行動パターンが読めてきた。

 今のところ、攻撃は主として三種類。

 オーラを纏っての振り下ろし、通常の振り下ろし、横方向への薙ぎ払い。

 うち、こちらにそれなりのダメージが入ったのはオーラを纏った攻撃のみ。

 恐らくは、何らかの攻撃スキルを発動しているのだろう。

 必ず予備動作があり、連発はしてこない。


「動作中が隙だね!」


 棍棒を振り上げ、オーラを纏うまでの数秒間。

 AGIで劣る私がこの千日手状態から抜け出すには、ここで攻撃を決めていくしかない。

 集中。

 精神を落ち着かせ、ゴブリンヒーローの行動をつぶさに観察する。

 そして――。


「たりゃっ!」


 ゴブリンヒーローが腕を大きく持ち上げようとした瞬間、全力で大剣を薙ぎ払った。

 攻撃モーションに入っていたゴブリンヒーローは、ガードすることもできずまともに攻撃を喰らう。

 よっし、クリーンヒット!

 HPバーの端がガクンッと削れた。

 今の攻撃だけで、一割ぐらいは持って行けたようだ。

 続けてもう一発放とうとするが、今度はあっさりとかわされてしまう。

 むむう、私の今のステータスだと一発ずつしか当てられないか。

 連撃を決めて一気に削ってしまいたかったけど、さすがにそれは厳しいようだ。


「そんなに甘くはないか。けど……」


 一回で無理なら、繰り返せばいいのだ。

 幸いなことに、大剣で攻撃を入れるとゴブリンヒーローのスキル攻撃はキャンセルされる。

 このまま続けていれば、この勝負、そう遠くないうちに勝てる!

 そう思って、戦い続けることしばし。

 ゴブリンヒーローのHPが残り三割ほどとなったところで――。


「グアアアアオ!!」

「やっぱそうなるかい!」


 ゴブリンヒーローの身体から、赤黒いオーラが噴き出した。

 ボスキャラにありがちな瀕死になると行動が変化してパワーアップってやつみたいだ。

 

「早いっ!」


 移動スピードが目に見えて上昇した。

 風を切って振り落とされる棍棒。

 何とか対応しようと大剣を構えるが、受けきれずにすごい衝撃が伝わってくる。

 げ、HPが削れた!

 攻撃力の方もかなり上昇しているようだ。

 ガードを抜けて、私のHPをわずかながらに消し飛ばす。

 その後も次々と繰り出される攻撃に、みるみるうちに防戦一方となってしまった。


「まずいな……!」


 AGIの都合上、敵の攻撃を回避しながら攻撃するプレイングは厳しい。

 そもそも大剣という武器種自体が、動き回ることには向いていなかった。

 ゴブリンヒーローのような小柄なボスモンスターとは、根本的に相性が悪いのだ。

 こうなってしまっては、勝ち筋はひとつ。

 やられる前にやる!

 私のHPが尽きる前に、相手のHPを無理やりにでも削り切るのだ!


「キリングゾーン発動!」


 私の身体から、ゴブリンヒーローのものとよく似たオーラが噴き出す。

 よーーし、力比べだ!

 早々に削り切ってあげるよ!

 敵の攻撃モーションに合わせるようにして、私もまた攻撃を繰り出す。

 ぶつかり合う大剣と棍棒。

 筋力ではゴブリンヒーローの方が圧倒的に勝っていたが、武器の重量では私が有利だった。

 むしろ、棍棒なんかで大剣と張り合うのはさすがとしかいいようがない。

 双方ともに武器を弾かれ、HPが少しずつ削れていく。


「くぅ、あと少し!!」


 ちょっとの差だけど、私の方が先に力尽きそうだった。

 三割ほどまで減っていたとはいえ、相手はレアモンスター。

 低レベルプレイヤーである私とは土台があまりにも違った。

 ポーションを飲めば何とかなりそうだけれど、あいにくその余裕すらない。

 ほんの少し、あとほんの少しだけなんだけど……!

 クリティカル連発に期待するが、こういう時に限って出てくれない。


「手も足も出ない……! あ、そうだ!」


 私は思考操作でステータス画面を呼び出すと、すぐに頭装備の非表示状態を解除した。

 すぐにアイアンヘルムが出現し、顔のほとんどが覆われる。

 この重量と硬さなら……いける!!


「どりゃああっ!!」

「グギャッ!?」


 手も足も出ないなら、頭突きをかませばいいじゃない!

 実に安直な発想から繰り出した攻撃だったが、これが思いのほか有効だった。

 ガンッと鈍い音がすると同時に、ゴブリンヒーローのHPが削り取られる。

 まあ、アイアンヘルムを装備してるからね。

 石頭どころか鉄頭でぶちかますのだから、そりゃ効くはずだよ。

 

「えええいっ!」


 よっしゃ、クリティカルが出た!

 先ほどまでとは異なる気持ちのいい炸裂音。

 それと同時に、ゴブリンヒーローは脳震盪でも起こしたようにふらついた。

 今こそ最大のチャンス!

 大剣を構えなおすと、ここぞとばかりにフルスイングをかます。


「消しとべぇッ!!」


 狙うは頭のみ!

 殺意全開の一撃は、吸い込まれるようにしてゴブリンヒーローの首筋に直撃した。

 HPバーが消失し、ダメージを示す光の粒が溢れた。

 そして――ゴブリンヒーローの首が宙を舞う。


「ふぅ……勝ったあぁ!!」


 ――レアモンスター<ゴブリンヒーロー>を討伐しました。

 ――称号<勇敢なる挑戦者>を獲得。

 ――称号<小鬼の敵対者>を獲得。

 ――スキル<覚悟の突撃>を獲得。

 ――レベルアップしました。

 ――EXシナリオ<小鬼王の覇道>の発生条件を満たしました。


 声を上げると同時に、次々と流れていくメッセージ。

 ずいぶんとまた、一気に来たねぇ!

 私は心地よい高揚感を抱きながら、すぐにそれらを確認しようとしたのだけど――。


「あ、やばっ! ログアウトしなきゃ!」


 気が付けば、夕食の時間を大幅に過ぎていた。

 私は戦果の確認をひとまず後回しにすると、ログアウトボタンを押すのだった。

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