第二話 お買い物

「おおー、混んでるねー!」


 キャラメイクと資金稼ぎが終わり、転移した先は賑やかな城下町だった。

 町全体が大きな丘の上に立っていて、そのてっぺんに巨大なお城が聳えている。

 細い尖塔や空中回廊が複雑に入り組んだその姿は、まさにファンタジーって感じだ。

 見ているだけで、テンションが上がってくる。

 しかも、頬をなでる風や日差しのまぶしさは現実そのもの。

 メイドも言ってたけど、まさに異世界に来たって雰囲気だね!

 

「まずは、装備を買おっかな」


 さすがに一千万もあれば、初期よりマシな装備ぐらい買えるだろう。

 広場を見渡せば、露店を出しているプレイヤーらしき人物が何人もいる。

 NPCが町民っぽい服装でいるのに対して、武装して店番をしているのでわかりやすい。


「すいませーん!」

「いらっしゃい。何が欲しいんだい?」

「大剣と鎧をください」

「じゃ、そこの皮セットと石の大剣かな。合わせて五百ゴールド!」


 やっす!

 でも、皮と石って。

 明らかに弱そうだし、見た目もダサい。

 RPGの初期村あたりで売ってそうな雰囲気満載だ。

 いやまあ、実際ここは初期街なんだけどさ。

 私はもっとこう、カッコいい武器や防具が欲しいんだよね。


「もっといいのないの?」

「あるけど、君って第二陣の人でしょ? お金あるの?」

「自慢じゃないけど、結構あると思うよ!」

「じゃあ、こいつを買うかい? アイアンフルセットと黒鉄の大剣、二百万ゴールド」


 そう言っておじさんがストレージから取り出したのは、綺麗に磨かれた鎧一式と大剣だった。

 最初に見せてもらったのと見比べると、可哀そうなぐらいグレードに差がある。

 鈍く光るプレートメイルは、歴戦の強者といった雰囲気の見事な出来栄えだ。

 大剣の方も、武骨だけど日本刀っぽい美しい刃紋が浮いている。


「いいじゃん! これください!」

「え? ほんとに金あるのか?」

「もちろん」

「冗談のつもりだったんだけどな……。君、もしかして有名プレーヤーの知り合い?」

「別に」

「じゃあ、サブ垢? あ、このゲームは取れないんだったっけ……」


 腕組みをしながら、ああでもないこうでもないと混乱し始めるおじさん。

 じれったいなぁ、早く売って欲しいんだけど。

 私は早く鎧を着て、街を飛び出したいんだよね。


「おじさん!」

「あ、ああ! ごめんごめん!」

「売るなら早く売って欲しいな。私、すぐに冒険に出たいんだから!」

「わかったわかった」


 おじさんとの取引を終えると、すぐに手に入れた武具を装備する。

 頭は視界が悪くなっちゃうから非表示にしてっと。

 おおーー、すごい!

 初期装備を着てた時と比較すると、ステータスが段違いだ!


 名前:シェリー

 職業:戦士(Lv1)

 HP 50/50

 MP 12/12

 STR 120(+70)

 VIT 80(+80)

 AGI 0

 DEX 0

 MND 0

 

 装備

 頭:<アイアンヘルム(非表示)>

 胴:<アイアンアーマー>

 右手:<黒鉄の大剣>

 左手:<(黒鉄の大剣)>

 足:<アイアンブーツ>

 アクセサリ:<空><空><空>


 スキル

 なし


 ステータスのうち、カッコがついているのが装備によってプラスされている分だ。

 お値段が高いだけあって、装備の補正値だけで極振りしていたSTRが二倍以上になっている。

 まあ、こんな立派な大剣が補正値10とかでもしょぼすぎなんだけどさ。


「よっし、それでは街の外へしゅっぱーつ!」


 ――〇●〇――


「うわー、満員だ!」


 街の正門を抜けた先に広がる草原。

 普段なら広々としているであろうそこは、獲物を求めるプレイヤーでいっぱいだった。

 東京の街中は言いすぎだけど、地方の繁華街ぐらいの人口密度がありそう。


「人ごみ苦手なんだけどなぁ。しょーがないか」


 草原にポップするウサギさん。

 女性プレイヤーへの配慮だろうか?

 どことなーく意地悪そうな顔をしたそいつらを、大剣でまとめて薙ぎ払う。

 ――ブゥンッ!!

 たったの一撃でHPバーが消し飛び、ダメージを示す光の粒子が舞った。

 おーー! これが極振りの力か!!


「ははは! 見たか、私の攻撃力!! 圧倒的じゃないか」

「……あの」

「ん?」


 気づけば、周囲のプレイヤーたちが妙に冷たい目でこっちを見ていた。

 そんなに引かれるようなことしたかな?

 今のセリフがちょっと寒かったからって、そんなひえーッとした感じの眼をしないで欲しいぞ?

 私、これでも割と繊細なんだよ?


「ここ初心者用の狩場ですし、上級者の方は他へ行って欲しいなって」

「レベル1なんだけど!」

「嘘つかないでください。そんな装備を初心者が持ってるわけありません」


 強く断言する女の子。

 それに合わせて、他のプレイヤーたちもうなずいた。

 うーん、こりゃ説明するのはだいぶめんどくさそうだな―。


「わかったよ。どうせここ混んでるし、もっといい狩場見つけるから!」


 こうして私は、ひとまず草原を去るのだった。

 まったく、か弱い初心者だってのになー!

 ほんっと失礼しちゃうよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る