第一話 発売日
「ふっふーん♪ とうとう来ちゃったね!」
迎えた発売当日。
屋敷に届いたヘッドセットを、ウキウキしながら被る。
Navi Onineについてはあれから結構調べたけど、評判すっごく良かったからねー!
VRゲーム自体が初めてだし、本当に楽しみ!
「ではでは! READY ON!」
キーワードを叫んだ瞬間、光が弾けた。
重力が失われて、気がつけば周囲は別世界。
暗い空間に星々が煌めき、宇宙のようになっている。
「おー! めっちゃ綺麗!」
この美しさはVRならではって感じだねー!
リアルじゃここまで鮮明に星なんて見えないし。
感動しながら周囲を見渡していると、ポーンと小気味良い音とともにウィンドウが立ち上がる。
「ここはキャラメイクの場所だったんだ。うーん、何が良いかな」
初期に選べる職業は六つ。
戦士・射手・盗賊・魔導士・神官・召喚士だ。
ここから二次職、三次職と進んでいくにつれて派生がどんどん増えていくらしい。
特殊な経路でしかなれない職もあると言うから、私もぜひ就いてみたいものだ。
「初期は戦士かな。物理で殴り飛ばすに限るよね!」
戦士はHPとSTRに特化した構成となっている。
ようは、レベルを上げて物理で殴れってこと!
単純で分かりやすいし、何より一撃必殺には浪漫がある。
大剣ぶんぶん振り回して、すべてを薙ぎ払ってみたい。
絶対気持ちよさそうだよね!
「ステータスポイントはSTR極振りでと。キャラメイクは……あー、あんまりいじれないのか」
性別はもちろんのこと、背格好や顔もあんまりいじることはできないらしい。
前に自己の同一性が云々とかニュースになってたから、多分その関係かな?
何でもあまりに実際の自分とかけ離れた姿で活動していると、現実での自己認識に問題が生じるのだとか。
脳に直接作用するVRだから、その辺は基準が厳しいんだろうね。
「顔は目の色だけ赤に変えよっかな。体型は……2センチだけ!」
低めの身長に少しだけプラスする。
ちょっとした違いなんだけど、この差は結構大きいからね。
譲れないこだわりポイントだ。
他はまぁいいかな。
少し痩せたり胸を大きくしたりできるみたいだけど、身長以外はだいたい満足してる。
「名前は、どうしよっかなぁ」
私の本名は聖桜院麗奈。
安直にレナとかもありだけど、最近のネットは怖いからねー。
もう少し離した方が良さそう。
「桜だからチェリー? なんかヤダな、語感を変えてシェリーにでもしようか」
シェリーというと、お酒の名前でもある。
雰囲気も悪くないし、これに決定!
「他に決める事項は……なさそうだね。意外とシンプル」
最後に決定ボタンを押すと、ショップの案内が出てきた。
ふうん、初心者応援セットか。
どこの運営も考えることは似たようなもんだなー。
説明を読めば、序盤に役立つ回復アイテムの詰め合わせとのこと。
ただし、序盤を抜ければこれ以上の性能のアイテムが容易に入手できると書いてある。
他にはアバターセットとストレージ拡張系がいくつか。
アバターは純粋な見た目用のようだし、ストレージは足りなくなったら買い足せばいいか。
「ひとまずは初心者応援セットかな。あれ?」
個数を打ち込もうとして、少し驚く。
何故だか知らないけれど、9999個まで一気にまとめ買いできる仕様になっていた。
これもしかして、アイテムの所持枠が9999個でそれに合わせてるってことかな?
「確認してみよっと」
とりあえず、9999個ずつ2回購入する。
するとストレージの枠が「初心者応援セット ×9999」と表示された宝箱アイコンで二つ埋まった。
やっぱり、ゲーム内の仕様に合わせてたってことだね!
推理が当たった私は、よしっとガッツポーズをする。
「ん?」
アイコンにカーソルを合わせると「売却」と表示された。
ありゃりゃ?
これもしかして、売れちゃう感じ?
試しに売却ボタンを押すと、1ゴールドで売ることが出来た。
おおお! これで勝てる!
「こりゃ、やれるだけやるしかないよね!」
こうして私は、時間の許す限り初心者応援セットを買っては売り払うのだった。
目標は一千万ゴールドかな!
時間もあるしいけるっしょ!
「よっし、これでばっちり!」
約一時間後。
一千万ゴールドを手にした私は、意気揚々とNavi Onlineの世界に降り立つのだった。
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