お嬢様、VRMMOを兆課金で攻略する! 〜VRMMOに66兆6000億円課金しました〜

kimimaro

プロローグ とりあえず千本予約した

「申し訳ございません、お嬢様!」


 うちのメイドが、仕事をさぼってゲームをしていた。

 夜中に厨房の前を通ったら、ヘッドセットを被って座り込んでいる少女がいたのである。

 薄暗闇の中で佇むその姿はもはやホラー映画か何かのようだった。

 見た瞬間、思わず叫んじゃったぐらいだ。


「どうかこの件、メイド長にはご内密に……」

「わかってる。それより、何のゲームをしてたの?」

「Navi Onineでございます」

「ふーーん……」


 あいにく、私の知らないタイトルだった。

 そもそも、ゲームのタイトルなんてそれほど知らないのだけども。

 聖桜院財閥の娘として生まれて十五年。

 今時珍しい箱入り中の箱入り娘として育てられた私は、サブカルには正直疎い。

 一時期、ハマってたことはあるんだけどねぇ。


「お嬢様、もしかして知らないんですか?」

「うん。最近はゲームとかあんまりしてないし」

「Navi onlineと言えば、いま世界で一番話題のタイトルですよ! 初回出荷分は三百人に一人しか買えないって言われてたぐらいなんです!」

「へえ、そんなすっごいやつなんだ」

「はい! ほんとに、ほんっとーーに面白いですよ!! 本物の異世界に行ったみたいな気分になれます!」


 目をキラキラと輝かせながら、熱く語るメイド。

 背後に炎でも背負ってそうなぐらいの勢いだ。

 これは、結構マジな感じがするね!


「そんなに言うなら、私もやってみよっかな。ちなみにどこで売ってるの?」

「秋葉原の電気店で買いましたけど……もう在庫がないと思いますよ」

「メーカーはどこ?」

「ウィザードソフトウェアです」

「あ、うちの関連会社だ。何とかなりそう」


 下請けの下請けのそのまた下請けの子会社ぐらいだったっけ?

 いずれにしても、電話すれば買えそう。


「あ、お嬢様ずるいですよ! 私なんて、発売前日の深夜から並んでようやく店頭在庫を売ってもらえたのに!」

「大丈夫、無理に買いたいとは言わないよ。欲しいなーって匂わせるだけで。そうすると、向こうが勝手に譲ってくれるんだ」

「それ、いわゆる忖度ってやつじゃないですか! もっと駄目です!」


 腰に手を当てて、ダメダメと首を横に振るメイド。

 うちに来るおじさんたちに聞いたら、教えてくれたやり方なんだけどなー。

 あんまり良くないのか、そりゃ失礼したね。


「しょうがない、普通に買うしかないか……」

「初回分はもう厳しいですけど、第二陣がそろそろ発売されるはずです。そちらを買ってみてはどうでしょう?」

「お、いいね! じゃあさっそく予約しよう!」

「はい!」


 メイドはスマホを取り出すと、すぐに公式の予約サイトを開いた。

 えーっと、なになに……。

 お一人様一点限り予約可能。

 予約数が販売予定数を上回った場合は抽選。

 代金は前払いで、抽選に落ちた場合は即座に返金される、か。


「ふーん、なんか厳重な感じだね」

「初回出荷の際は、転売屋も結構出ましたからね。対策が厳しくなったんですよ」

「倍率って、どんなもんだろ?」

「さぁ……? 販売数自体は初回より多いですけど、評判が良かったですからね。あんまり倍率は落ちてないと思いますよ」

「じゃあ、とりあえず一千本予約しとこっかな」

「ぶっ!?」


 急に面白い顔をして噴き出すメイド。

 彼女は私に顔を近づけると、すごい勢いで確認してくる。


「一千本って! そんなにどうするんですか!」

「だって、倍率三百倍ぐらいなんでしょ。確実に欲しいならそれぐらいすべきじゃない?」

「確率論的にはそうなんでしょうけど! 前払い分はどうするんですか? Navi OnineはVRタイトルですから、一本三万円もするんですよ。千本だと三千万円もします!」

「ほい、ブラックカード」


 ケロちゃんからカードを出すと、メイドはぐぬぬと唸った。

 そこそこかわいい顔してるのに、ブルドッグみたいになっちゃってる。


「……では、一千人分の住所と氏名は? 架空名義だとすぐばれますし、関係ない人の元に届いては受け取れませんよ」

「うちの使用人、一千人ぐらいいるでしょ。足りなきゃパパのところの人も足せばいいし」


 屋敷のパソコンに私のアカウントでアクセスすれば、全員分の名簿をすぐにみられる。

 幸い、ほとんど住み込みだから住所はみんな一緒。

 名前さえ入れてしまえばあとはコピペでいいから、フォームに打ち込むときもとっても楽ちんだ。


「おお……力技で無理やりぶち破ってる感が半端ない……!」

「問題ないでしょ?」

「ありと言いたいですけど、ないと思います。ええ……」


 少しやつれた感じのするメイド。

 何か気に触るようなこと言っちゃったかな?

 そろそろ夜も遅いし、疲れてきちゃったのかも。


「ま、いいや! 発売日が楽しみだね!」

「うぅ、何か呼んではいけない人を呼んでしまった感じが凄くします……」


 そんな人をラスボス扱いしないで欲しいなー。

 私なんて人畜無害なお嬢様なのにー。


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