エピローグ
「あぁっ?!俺が恵理ちゃんと結婚するって?!どっからそんな発想が出てきたんだよ」
「え。だって、社内でも噂でもちきりだったし。それに・・・あのとき電話で話してたのは、石本恵理さん、だったんでしょ」
「あ?あのときって?」
「クリスマスの朝・・」
「あぁあのときか。そうだよ。あれは、恵理ちゃんに見合い話が来てて、その中の候補の一人が俺だと知った恵理ちゃんが、まだ若いのに結婚なんてしたくないから何とかしてくれと泣きついてきたんだ。俺としてはどうすることもできないが、少なくとも俺は、恵理ちゃんとは結婚しない。結婚すると決めた女性がいるからと言った。石本専務にもそれは話したんだけどなぁ。噂になってたのか。ふーん・・・。で、かすみはそれ聞いてどう思ったんだ?」
「え?どうって・・・仕方ないな、って・・」
俯いて答えた私に、如月さんは「おいおい」と言った。
「そこは譲るところじゃないだろ?大体俺は、婚約者がいながら他の女と寝るような男じゃないよ。まさかおまえがそんな風に俺のことを思っていたとは・・・ショックー」
多少芝居がかかってはいたけれど、ガックリうなだれた如月さんは、確かにへこんで見えた。
「えっ!?いや、違うんですって!ホントに・・・あの、私・・今までおつき合いとかしたことなくて、ずっと如月さんに片思いしてたから・・・。だから男の人とか恋愛とか、正直言ってよく分からなくて。ただ、分かってるのは、如月さんのことが好きで好きで・・愛してしまって、愛し過ぎるの止めなきゃって・・・ご、ごめんなさい」
「じゃあキスして」
謝罪も兼ねて、ますますうなだれていた私は、如月さんの「キスして」発言に、思わず顔を上げた。
「えぇ!?そそ、そんな。急に言われても・・・」
「俺のこと愛してるんだろ?」
「それは・・・はぃ」
「だったらキスしてくれよ。そーしたら許す」
「ゆ、ゆるす、って・・・」
泣きそうな顔で見る私に、如月さんはニコニコ笑みを浮かべながら「ここな?ここ」と言って、人さし指で自分の唇を指している。
あぁ、今目の前にいる如月さんが、なぜか鬼か悪魔に見えるんですけど!
でも・・私はこの人と結婚するんだ。
これからもキスすることはあるんだから・・・。
ただ、初めて私からキスするから緊張してるのよ。それだけ。そうよ!
「ほら、かすみ?早く来いよ。遠慮するな」
「遠慮って!そんな・・」
覚悟を決めた私は、
そして、思いきって如月さんの方顔を寄せて・・・。
目を閉じて私を待っている彼の唇に、素早くキスをした。
その瞬間、如月さんの口角が上がって、満足気な声が漏れた。
「・・・ちょっと早かったがその調子だ」
「ど・・どぅも」
如月さんが私の手を握ってるから、離れようにも離れられない・・・!
私たちはテーブルをはさんで、お互い超近距離で見つめ合っていた。
「これからも俺には遠慮しなくていい。俺だけには本音言っていい。本気でぶつかってきてほしい。俺、受け止めるだけの自信はあるよ。だからかすみ。おまえはもう、一人で抱え込んだり我慢しなくていい」
「はぃ・・・・・あの」
「ん?」
「私・・妊娠、しました」
「・・・え」
如月さんが私から手を離した。
彼は涼しい目を見開き、驚きの表情になっている。
「マジで?」
「あ・・たぶん。まだ病院で診てもらってないんですけど、今朝自分で確認はしてみて・・・きゃあっ!!」
突然、如月さんが私を抱きしめた。と思ったら、グルグル回り出した!
足を宙に浮かせた私は、如月さんに回されるまま、ただ彼にしがみついていた。
「あぁごめん!つい嬉しくてやっちまったが・・・大丈夫?」
「だ、大丈夫です・・」
「子どもも大丈夫だよな」
「大丈夫だと思いますよ」
「よし。明日病院に行こう。それから・・・・・・かすみ」
「はい?」
「生んで、くれるよな?俺たちの子」
「な、何言って・・もちろんですよ!」
「ごめん。ごめんな」と如月さんは言いながら、私を抱きしめた。
「どぅして、謝るの・・?」
不安になった。だけど私は如月さんの背に手を回した。
「子どもできたって分かったのに、俺が他の女と結婚するって噂聞いて不安だっただろ?ったくおまえは・・・遠慮せずに俺に聞けば良かったのに。でも俺も悪かった。ごめんな、心細い想いをさせて」
「いえ。全て私の思い違いっていうか・・まぁホントにそうだから」
「俺が結婚すると決めた女性は、かすみ、おまえしかいないよ」
途端に安心した私は、如月さんの腕の中に包まれながら、彼の温もりに浸った。
「あぁ、俺たちに子ども産まれるんだ。嬉しいなぁ・・・。かすみ」
「はい」
「ありがとう。俺たち、幸せな家族を築こう。な?」
「・・はい!」
翌日、病院に行った私たちは、無事妊娠していることを確認し、二人で涙を流して喜んだ。
その帰り道、役所に寄って必要書類を揃えて、2月20日の大安に、私たちは入籍した。
十四郎さんは不規則な海外出張が度々あるし、私は出産という一大事が待ち受けている。
だから結婚式は、ひとまず出産後に挙げるか挙げないか、決めることにした。
それから、十四郎さんがクリスマスイブの日に、コロちゃんを見に実家へ行こうと誘ってくれたのは、もちろんご両親に私を紹介するためなのがメインで、「コロは口実」と言っていたっけ。
そのご両親は、今では私の義両親だ。
すでに両親を亡くした私は、義両親のことを、義理ではなく、本当の両親と思っている。
義両親も、私のことを「新たな娘が来た」と歓迎してくれた。
私たちの間に子どもができたことも、もちろん喜んでいる。
私は将来、誰とも結婚することもなく、このまま一人でひっそり年を重ねて、孤独に死んでいくんだと思っていた。
それが今では、9年間片思いをしていた彼と結婚して、二人の間に子どもも生まれる。
偶然の一致と子猫のコロちゃんから、まさか私の人生がこういう方向に流れていくなんて・・・本当に人生は何が起こるか分からないものだ。
「あ!」
「どうした」
「そういえば私は、結局なんにも十四郎さんにプレゼントをあげてない」
「何言ってんだ。おまえは俺にいつも最高のプレゼントをくれてるじゃないか」
「え?何を?」
キョトンとした顔で見る私に、十四郎さんは凛々しい顔をニッコリさせてこう言った。
「おまえの全て」
バレンタイン・プレゼント 完
バレンタイン・プレゼント 桜木エレナ @kisaragifumi
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