文豪
総真海
文豪
「ではやはり今回の受賞は、長年の奥さまの内助の功があったからだと」
テレビでは昨日世界的に有名な文学賞を受賞することが決まった作家のインタビューが流れていた。
喜びを隠しきれないのか、偉大なる作家は黒革のソファーにふんぞり返り、にやにや笑いながら、
「まあね、こいつにはずっと支えてもらいましたからね。よくできた女ですよ。感謝してます。来世でもね、やっぱりね、おれはこいつと夫婦になりたいね」
「奥さま、いまのご主人の言葉を聞いてどう思われましたか?」
画面は大作家と、隣に座る彼の妻を映し出した。
元女優、凛とした着物姿の妻は微笑みながら、
「はい、もちろんわたしもこのひとと来世でも一緒になりたいと思っております」
文豪は妻の方をちらと見ると得意気にふふんと鼻を鳴らした。
美しい妻君はそんな夫の方を向いて続けた。
「ねえ、来世ではあなたの方が女に生まれて、男に生まれたわたしに尽くす番だけど、ちゃんとやってくれますよね? 仕事が上手くいかなかったときや夕飯の献立が気に入らなかったときにテーブルをひっくり返したり、あなたが妊娠して
女優はとびきりの笑顔で伴侶の顔を覗き込んだ。
ははっ、と文豪は冗談めかして笑い、目を泳がせながら、
「まあ、まあ、そうは言っても次に男と女、どちらに生まれるかは神様が決めることだから」
わたしはテレビを消した。
未だ美しさは残るが老いた女優の、恐らく彼女の人生の中で最大にして最後の一撃に胸がすく思いがしたのは一瞬のことで、あとはもうそんな彼女の執念深さにもやもやとするばかりだった。
なぜこんな男と別れずにいたのだろう。来世なんか待たずに現世で違う生き方を見つければよかったのに。
待てよ、夫婦は来世でも夫婦。
なら前世では。
文豪 総真海 @Ziming22
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