遣唐使を題材にした歴史小説であり、今よりもずっと遠い国であった中国にその青春を捧げた若者たちの物語。でもそこに流れるのは壮大な大河だけではない。前途に迷い悩む心、人とのつながりの中で揺れる心、そんな小さな心の動きまで丁寧にくみ取ってある。エリートたちの賢すぎるやり取りの中に、吹き出しそうなユーモアと普遍的な友情がある。ダイナミックなストーリーと共に、生活の息吹を感じる描写が、あたかもその時代のその場所に居るかのような臨場感を持たせる。そこには「人間」が描いてあるからだ。
不思議な運命を背負った主人公は、ある時は一歩引いて人間を観察し、ある時は大笑いさせ、ある時は強い感情で自分自身に問いを投げかける。
使命とは。
志とは。
友とは。
愛とは。
そして、還る場所とは。
その姿は等身大で、読み手の胸に同じ疑問をぶつけてくるようだ。
ラストに向かっての怒涛の展開は目が離せなくなる。最後に訪れる感動、これはこの物語を追ってきた者に与えられる大きな喜びである。
とにかく素晴らしいとしか言いようがない。
ぜひ書籍化、映像化してもらいたい作品である。それもできれば一年かけて、大河ドラマにしてもらいたい。
遣唐使が題材、というところに惹かれて読み始めました。
阿倍仲麻呂や吉備真備、井上真成といった豪華メンバー総出演で、約20年に渡る唐での生活の、真面目な部分だけでなくお茶目な部分、青春、友情、ちょっとお色気、そういう人間臭さが唐の空気と一緒に立ちのぼってくるようで、おもしろかったです。
ファンタジーで味付けはされていますが、歴史的事実や当時の風習、漢詩なんかをきっちり押さえてあって、とても読み応えのある物語でした。
終盤の流れは、主人公と一緒に「うわーん!」と泣いてしまいそうでした。ラストまで読んでようやく解ける「序」と、語り手が話している相手。全編を通して「想い」というものが秘めている力を感じました。
歴史好きの人にも、そうでない人にも、オススメです!