第8話 気になる人とコーヒー

私には気になっている人がいる。

きっかけはとても簡単なことで、私を普通の女の子として見てくれた事だ。何を言ってるんだと思うかもしれないけど、私にとっては嬉しかった。

私は女優のようなものをやっていて、私に告白してくるのは女優として、クラスでは腫れ物扱い。誰も私の中身を見てくれなかった。

でも彼は私の事を見てくれた。女優としての白波優奈ではなく、女の子としての白波優香を見てくれた。だから私は……。


「そんな少女漫画みたいなこと言ってるけど、優香は見てるだけじゃない」

「うっ」


私に現実を突き付けてきたのは親友の春川千里。私と同じ高2で、誰とでも仲良くできる。私とは大違いだ。


「そんなこと言ってもしょうがないでしょ!」

「高校生にもなって恋愛を体験してこなかったって事を言ってるんだけど」

「みんな私の事を見てなかったんだもん!」

「分かったから、で、その斉野正隆君とは接触できたの?」

「うっ」


わたしがもう一度呻き声を上げる。全くできていない。


「私だって結構調べたんだよ!」

「それってストー……」

「わあああ!違うから!」


千里が言おうとした言葉を急いで遮る、それは言わせてはいけない単語だ。


「取り敢えず私が調べた成果を聞いて!」

「ろくな情報じゃ無いような気がする」


千里をひと睨みしてからここ3日間の成果を話す。


「名前は斉野正隆さいのますたか年齢は誕生日が分からないから不明。電話番号も知ってたのは数人で教えてもらえなかったし、住所も不明、好きな物は不明、嫌いな物も不明で周りからの評価は、

「良い奴だけど何考えてるか分かんないし、良く考えたらあいつのこと何にも知らない」……以上」

「優香は一体何を調べてたの?」

「本当に本気で調べたのに何にも出てこなかったの!」


年齢は多分17か18だろうけど、電話番号も信頼している人にしか教えていないらしく、誰も怪しがって教えてくれない。


「しかも何なの?良く考えたら何も知らないって」

「いろんな人に聞いたけどそれしか言わないの!」

「電話番号を持ってる人は?」

「先生と篠塚理緒って子だけど何も教えてくれなかった」


思わず頭を抱える。もしかしたらその子が彼女だったり。


「その子が彼女だったりしてね」

「辞めて!」


篠塚って言う人は眼鏡で顔を隠してたけど、外したら美人という噂がある。胸が大きいし。

もしかしたら斉野君と……。


「帰り道も付けてみたけど毎回途中で撒かれちゃって」


千里がそれストーカーったら言いたそうな顔をしている。気にしないから!


「まあ今日はいいでしょ、帰りにどっか寄って帰ろう?」

「ごめん、今日は親に早く帰って来いって言われてて……」

「テレビ関連?」

「多分そうだと思う」

「大変だね」


女優業はしんどいけど、やっぱり楽しいと言う感情もある。続けていけたらいいな。

少し浮かない気持ちがある中で午後の授業が過ぎて行った。



****



何だか今日は気分が乗らない。

祝日なのに午後から仕事が入っているし、明日は学校だしでしんどいことばかりだ。

行く当てもなく歩いていると、見たことのあるような顔を見つける。


「あれは……篠塚さんかな?」


祝日なので人通りも多く、しっかり見えるわけでは無いけれど、篠塚さんの胸のあたりを見れば一目瞭然だ。

何だか負けた気分になりながらも考える。


(何か斉野君のことを知ってるかも)


チラリとスマホを確認する。1時間ぐらいは大丈夫だろう。

篠塚さんの後をつけてみることにした。



〜15分後〜



「そうだよね、斉野君の家に行くかもなんて思ってたけど行かないよね」


尾行してから15分ぐらいで着いたのはこじんまりとした喫茶店だ。長年やってきたような、レトロな雰囲気を匂わせる最近では珍しい感じの建物だ。

ここまで来るまで歩いてきたので、少し喉が渇いているし、ここで飲み物を飲もうと思う。

カランカラン

心地の良いベルの音がなり、扉が開く。

そこには…………。


「なに、これ」


扉を開けて見えた光景は、所々際どく破けたコートのようなものを着た美人の女の子がロープで縛られいて、その近くで斉野君が立っている光景だった。

その光景を理解するのに数秒を有する。


「…………」

「取り敢えず無言でスマホを出すのはやめて下さい!」


斉野君が急いで止めに来る。でもこの状況は通報しないと、こんな人だったなんて。


「この状況どっからどう見ても犯罪ですよ!自主すれば刑が軽くなるって聞きますし、一緒に警察に行きましょう」

「だから違いますって!」


この後、篠塚さんから説明を受けて落ち着いたのは10分後だ。



****



「本当にすまんかったのう。こんな風になるとは思わなかったのじゃ」

「ごめんで済んだら警察は要らないのですよ!前にも同じようなことがあったじゃないですか!」


目の前では美人の黒髪の女の子と、将来美人になるんだろうな、と思う銀・髪・の幼女が言い争いをしている。


「異世界喫茶店かぁ〜」

「信じられませんか?」


左を見ると、相変わらず自己主張の激しい胸を持った篠塚さんが座っている。


「普通信じられませんよ。でもこの光景を見せられると少しは納得できます」


そう、銀髪だ。しかも、こんな小さな子がここまでスラスラと難しいことを言えるはずがない。


「2人共静かにして下さい。他にお客さんもいますし」

「静かにとは何ですか!もしここにヨウレルさんがいたらどうなると思うのですか?「その生足で踏んでください、ハァハァ」とか言うと思うのですよ」

「そこはわた……僕に言われましても」

「マスター、口調が戻ってるわよ」


今度は金髪縦ロールの美人の女の子が話す。

この光景を見て言いたいことがある。


「美人な人が多いですよね」

「それは私も思うのよね」


大きくため息をつく。自分の容姿に一応自身は持っていた、けどここにいる人たちのレベルは高すぎる。


「いつもならここまで女性陣が揃うことはないんだけどね……」


斉野君が大抵の人になびかない理由がわかったような気がする。


「何の話をしていたの?」


篠塚さんが、リリアーナと呼ばれている金髪の女の子に聞く。


「キャラが薄いのよ。マスターは私私って貴公子みたいに……そんなの今時流行らないから僕に強制させてるの」

「それはリリがパーティーとかの事を思い出したくないだけじゃないの?」

「うっ、違うわよ!」


図星か。リリアーナさんはとても心が読みやすい。ツンデレと言うのだろうか。


「マスターも人の事は言えぬぞ、一般人が入ってきておるではないか!」

「それは不測の事態ですよ、人間はの動きとは予測しきることなんてできません」

「私があんな風になる事は予想できてましたよね。私は許さないのですよ?」

「そ、そんなの予測できないに決まってるじゃないですか」


斉野君の目が泳いでいる。あれは分かっていた顔だ。


「全く、また修復屋に出さないといけないではないですか」

「妾が弁償すると言っておるではないか」

「当たり前です」


美人に囲まれていて、少しムッとしていたけどこの空間は何だか……。


「悪くない」

「私もそう思のよね。ここにいると何だか落ち着くのよ」


ホッコリしてると懐から振動を感じる。


「何だろ?」


スマホを開くと新しいメールが届いている。


あなた今どこにいるの?もうすぐ収録始まるけど。

母より


「忘れてた!」


突然の大声に全員がビクッとなけど、そんなこと気にしちゃいられない。


「ごめん、私帰らないと!斉野君もまた来るからね!」

「ま、またのご来店を」


背後で声が聞こえてくるけど早く帰らないと!

普段なら絶望するレベルのミスだけど何故か心は晴れていた。


「明日から頑張らないと」


斉野君に一歩近づけた。この事実だけで充分だ。







この後めちゃくちゃ怒られた。

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異世界喫茶店ペルシャへようこそ かかいか @usagi0328komugi

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