ちょっと余談の最終話 されど作成

 めでたしめでたし――と、ごく普通のおとぎ話ならここで終わるところだが。

 この話は「ごく普通」ではないので、僕があの後どうしたのかを、もう少しだけ。

 あたらしの郷に戻った僕は、両親や弟たちはもとより、佐平さんを初めとした郷のみんなにも温かく迎えられた。ねぎらいの言葉を受け止めているうちに、それまでの心身の疲れも吹き飛んだ。

 ただ、帰ってきたのが僕だけだとわかると、誰もが怪訝そうな顔をした。物ぐさ太郎は妻を見つけて都に留まっていると説明しても、信じてもらうのが一苦労だった。

 僕の帰宅と入れ替わるように、父はまた出稼ぎに行こうとしたが、僕はそれを引き止めた。僕を出稼ぎに行かせてほしい、そのためにも父には家にいてほしい、と頭を下げた。

 戻ってきたばかりなのに、なぜそんなこと言い出すのかと、最初は家族みんな戸惑っていた。都へ行って手に職をつけたい――そう根気よく説明して、ようやく認めてもらえた。納得したから、というより、熱意に押されてという感じではあったが。

 再び都を訪れた僕は、喜十郎さんに頼み込み、その下で働かせてもらった。大工としての技術を習得するだけでなく、仕事の合間には文字の読み書きも教わった。

 やがて僕は、大工として一人前と認められ、いくつもの仕事を任されるようになった。

 もっとも、得た報酬の大半は、里帰りした時に家族に渡している。そのため、手元に残る金は少額にすぎず、つましい暮らしを送っていた。

 妻に迎えたのは、都で出会った女性だ。彼女との間に子供も生まれ、裕福とは言えないが温かい家庭を築けている。

 様々な仕事を成しげるにつれて、世間からの評価も上がり、いつしか部下を育てる立場になっていた。さらに年月を経て、仕事を任せられる部下が増えると、そろそろ後進に道を譲ろう、と考えるようになった。

 僕は一線から身を退き、時間が空くようになった――ので、思い立ってこの文書を綴っている。

 物ぐさ太郎、いや、今は信濃の中将と名乗っている男。風のうわさによると、そいつは「俺が死んだら明神みょうじんとしてまつるように」と臣下に指示しているらしい。

 僕は今さら、恨みつらみを述べたいわけではない。

 ただ、人に敬われている者や、神とあがめられている存在が、本当にそれにふさわしい人物なのか――この文書を読んだ上で、よくよく考えてほしいだけである。

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新釈お伽草子――その男、面倒につき 里内和也 @kazuyasatouchi

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