第一章
【いかれ帽子屋】=フェデリ・ジョーカー①
どうしようどうしようどうしよう。
もしかしてわたしは『エリノア・ハート』なんだろうか、って思い当たったときには、まだ
ゲームのエリノア・ハートは最後、身分を
だってあの
エリノアおかしいよ!
『やあ、
わたしの口は相変わらず、全然思い通りに
筆談も
挨拶のときもそうだったけど、言おうとする言葉を悪意で思いっきり
とにかく――このままじゃまずい。
そもそもどうして、こんなことになった?
冷静に考えると、シナリオ通りに運ばせるためのゲーム強制力ってわけじゃないと思う。そんなものがあるなら、わたしは表面だけでもとっくに『エリノア・ハート』そのものになってなきゃおかしい。だけどこれまでのわたしは、ゲーム通りの『エリノア・ハート』ではなかった。それは断言できる。
なぜなら、ゲームのエリノアは子どもの
ゲーム本編に関係あるところまで進んだから? そんな雑な感じ? できる強制力があるなら子どもの頃から合わせておいた方が
しっくりこない。
……挨拶の直前までは、
ということは、
鏡、かな。
あのとき、足元に
――だって、
鏡にだけ映る影とか、ホラーだもん! でもホラーじゃない可能性がこの世界にはあったね!
この
ハートの国編では、エリノアの暴政を助長するキャラがいた。エリノアと面識はないけど、
鏡の国の魔物にとってのエリノアは騒乱を起こすための道具だから、この
もしゲーム同様に黒幕キャラがいるのだとしたら、エリノアはゲームのエリノアらしい方が都合がいい。わたしに呪いをかける動機は
……ゲームのエリノアも、実は呪いでああなってたとか……?
いや、彼女が傍若無人な
鏡の国の魔物が騒乱を望むのは、
まあ、アリス――ゲームヒロインが現れて丸く収めるわけだけど。
それ自体は
ええと、シナリオ通りならアリスはウサギツインズに
破滅までの展開をエリノア側から思い出そうとする
し、私室には
だからといって居留守を使うわけにもいかない。私室手前の
内心おののきつつ、口を開く。
「誰ぞ?」
だけど口から出るのは
エリノア
「
「よかろう、入れ」
許可を出すと侍女が
ちなみにニーナは
……絶対に
ちなみにジャックは攻略対象なので、美形である。短く
そーゆー性格でアリスの協力者になる人なので、当然エリノアの暴政をよく思っていない。
「さて?
用件は? と聞きたかっただけなのにこれである。もうどうしようもない。
本来もっと短く済む内容が嫌味でかさましされて余計な時間を食う。相手を
「
まったくです!
心の底から同意だが、実際のわたしはつまらなそうなため息をつく。
「戯れてなどおらぬ。妾も
「では……」
「実に
「何を……!」
処刑なんかしたいわけじゃないと、そう言いたいだけなのに、意味合いが全然違うセリフに
ああもう。口を開くだけ悪いことしか起こらない。話を打ち切って、帰ってもらうのが
「話がそれだけなら下がれ。でなくば――」
にやりと笑って、わたしは手に持った
扇子は
ハートの国の民は、
「死刑ぞ?」
そう、エリノアは
血筋が正しいといっても、王座を
なのに下ろされないのは、それができないから。暴力がエリノアの
「……私は、これまで
え、そうだったんだ。――と、思ったのと。
「ほう。それはまた
といういらないセリフが口を
「充分に理解しました。――お時間を取らせたこと、謝罪いたします。では」
礼をして、ジャックは退出する。
あ。これフラグ
きっとこの会話で、ジャックはわたしに見切りをつけたんだ。
背を向けたジャックに、わたしは声をかけなかった。だって今口を開いたら、死刑だが付いてくるに決まってるもの。
立ち去るジャックを見送りながら、ふとほの暗い考えが頭を過る。
――この状況に
わたしが先の展開を知ってるのは、もしかしたらそのためかもしれない。
そう、アリスの協力者となるジャックを
って、
落ち着けー。落ち着けわたし。そんなんで生き残って
……よし、まずは火急の件をどうにかしよう。やたらめったら死刑宣告してしまっている人々を解放しなくては。
ハート王国には、一応裁判制度がある。でも裁判官の上に女王がいるので、わたしが死刑と言ったら死刑なのだ。
とはいえ宣告はしたものの、それ以降わたしがノータッチなものだから、死刑場の用意に手間取っていてどーのという報告が来てる。全然いいです。むしろ一生完成しなくていいです。
死刑が
合法的に何とかできるのも何とかするべきなのも、最高権力者(仮)であり
しかしそのためには協力者が必要不可欠。わたし自身が口を出すのは、死刑宣告人数を増やすのと同義だ。
適任者を探す必要があるのだが、実は一人、心当たりがある。
ハートの国編の連動特典攻略キャラ、フェデリ・ジョーカー。
彼は
でも実際、鏡の国の魔物と相対するシーンで、フェデリだけは相手を
そんな彼なら、わたしの今の状況を
ゲームでのエリノアとの関係? ええ、もちろん最初から最後まで敵ですよ。だってヒロインの攻略キャラだもの。
けどエリノアと対決する前に、ちょっと意味深なセリフがあるんだよね。「残念だが、
アリスに決意を
――いや、ある! きっとある!
どうせこのままスルーしたら敵になるだけの人だし。始めから敵だと分かってるなら、失敗を
よし、善は急げだ。
立ち上がり、わたしは城の
私室の扉を自ら開くと、控えの間の侍女たちがはっとして固まり、高速で頭を下げた。
「へ、
「妾を
「ひっ」
言い放ち、その場を後にする。
……死刑宣告した人、両手で数えて
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