第二章
【アリス】=アレフ・リデル①
つまりまあ、
前世の法律だと、逃げると余計に罪が重くなるんだけど、それはこっちでも同じ。
「逃げるってことは、罪を認めたと
「で、あるか」
法律書をめくりながらのフェデリの言葉に、わたしは頭を
「逃亡先は分からないのか?
「家には、
答えながら――ついに来てしまったと息をつく。
これ、ゲームのオープニングだ。ラビが死刑宣告されて、その片割れであるレビ・シャムシェルが別世界への逃亡を画策するの。空間を
ラビは時間
アリスの世界では、なぜか完全な……とまで言うと
そこをたまたまアリスが発見する。服を着た二足歩行の
そうか……女王になって初めてのお茶会で、もう本編がスタートするのか……。
「なぜ、ここまで
あってもどうせアリスのものなんだろうけどさ。ちぇっ。
「やめておいた方がいい。人生にそんな機能があったら、最良を探しすぎて一歩も先に進めなくなるよ」
ごもっとも。
……って、ん?
「フェデリ、貴様、セーブとロードの意味が分かるのか?」
この世界にはコンピュータ・ゲームないんだけどな……?
「ん? ああ。まあ、
「!」
そういえば、さらっとこっちにない物の話をしてしまった!
いや待って。でもそれについてきたってことは、フェデリももしかしてこの世界以外の
「君の『神童』の正体はそれだな?」
「では、貴様は……」
「ああ、俺は
――え?
フェデリに何を言われたのか、とっさに理解できなかった。
「いい言葉があるだろう。君が
だってここ、ゲームの世界でしょう? わたしの前世の世界のゲームメーカーが作った世界。
たまたまプレイしたわたしが知ってるのはともかく、作られた世界の人が自分たちを作った世界のことを知ってるとか、そんなことあるの?
いや、そーゆー設定のゲームあったけど、『
思考が追いつかなくて何も言えずにいると、フェデリは
「まあ、もう少し茶番に付き合おう。君はこの先の未来を知っているんだろう?」
混乱させるだけさせて解答放置に落ち着かない気持ちになったけど、それより現実問題が
「ラビが、森でお茶会の魔法を使うはずだ」
でもどの森でなのかは分からない。オープニングに地名なんか出なかったし。
「それはありがたいね。時間を
「貴様に探せるのか?」
驚きのまま口にしてしまった。
ラビとレビの使う時空間魔法の術式は鏡の国のもので、わたしたち四印の魔力を使う人間にはどれほど
ちょっと
「どこで使われているか、ぐらいは分かるかな」
「……そうか」
そんなところまで規格外ですか。
「
「そのつもりだ」
でも多分、見つからないだろうな。
ラビが見つかる前に、きっとレビがアリスを連れてきて、ゲームがスタートしてしまう。
「捜索隊を編成する時間が
フェデリの言葉に、どくりと心臓が大きく脈打つ。
「……行くのか」
まず
「ラビ一人でお茶会の魔法を
時間を操る、なんて強大な効果を持つお茶会魔法には、二つ制約がある。一つは魔法の
平たく言うと、参加者の
「自然な考えだと思うんだが、不都合があるのか?」
終わらないティーパーティーをできるだけ長く維持したいなら、人数を増やすのは有効。なのにわたしの反応が消極的なのが気になったようで、フェデリはそう
「不都合は、ない」
フェデリのお茶会参加で事態が悪化する、なんて、そんなわけがない。だってそれはゲームのシナリオ通りの展開で、ハートの国のためを思うなら、むしろ行ってもらうべき。わたしにとっても、フェデリにラビを説得してもらえるかもという期待が持てる。
でも同時に、不安が
だってそこは――フェデリとアリスが出会う場所だから。
今のフェデリはわたしの意図を読み取ってくれてるから、ゲームみたいに
理性でそう言いきかせても、感情が
今のわたしが意思疎通できるのは、フェデリだけだから。
アリスと出会って、
アリスの
約束された
……それでもやっぱり、わたしは助かりたい。ゲームでは
「なら、どうしてそんな心配そうな顔をする?」
表情が
「俺はそこで何をするんだ」
「……すぐに害となるわけではない。ただ、運命と出会うかもしれないだけだ。貴様の荷を共に背負う、
ヒロイン・アリス。フェデリと
「その手を取るなら、貴様は
「運命、ねえ……。悪いが、俺は運命信者じゃないんだ。未来が決まっているなんてつまらない。自分が切り
まあね。わたしも運命が決まっていて、それをなぞって生きているだけとは思いたくない。
だってそれじゃあ、自分が望んで努力して
自分の望みも、努力の苦労も、成功の喜びも、感情すら、きっと『決まっている』こと。そんなふうに考えてしまったら、あまりに
それよりも
でも……でもね、フェデリ。これ、ゲームなんだよ。
ここまで全部、ゲーム通りに進んできた。エリノアが散々言って回った死刑が実行されたシーンは、ゲームでも
だとしたらますます、大筋が
アリスがここでどんな
「それが君の知る俺の未来なのか?」
「いくつかあるうちの一つだがな」
「ふん。それは
「?」
今? ここで?
フェデリの考えが分からずに首を
「エリノア、俺と恋人にならないか」
「!?」
「ああ、その反応いいね。君の知る俺の未来の中に、俺たちが付き合う未来はないわけだ。魅力的な選択だな」
「あ、あるわけがあるまい。
おおう。
フェデリとエリノアが付き合う未来なんてあるはずがない。敵だし、フェデリはアリスの
「俺たちは今、自分の意思で未来を選べる。
「断る」
フェデリの提案は、実験的には興味をそそられる。でも、わたしは断った。
だって、それは、違うと思うんだ。
大体、そんな気持ちのない関係、作ったところでしょうがないし。
「君の知る君の運命は、望ましくないものなんだろう。
「無意味だ。運命が本物なら歯止めになどならん」
実験でやってみただけの関係が、本当の
「どうかな? 俺は結構、君のこと
「は、ァ!?」
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