第4話

現実逃避をしていたものの、現実が変わることはなく草原を撫でる風だけが吹いている。



「・・・僕、これからどうすればいいの・・・?」



ポツリと呟いた言葉は風に乗って静かに消え、寂しさで胸が苦しくなった。


見知らぬ場所で泣きたくなくて、元気なフリして、いつもの喧騒から離れられたのだと気分を上げようとしていてもやっぱり寂しくて・・・


そして自分の傍には、いつも谷仲康煕という幼馴染が居たという事実に彼は初めて気づいた。

近くにいるのが当たり前になり過ぎたのと、名前呼びに慣れていないことで思い出すのが遅くなったのだ。


名前もうろ覚えで、いつも千隼から声をかける時は首を傾げ『ね、ね、これあげる』だったのだ。

しかも、美形で可愛いくて身長は低めで康煕を呼ぶ声に合わせて洋服の裾を少し摘んで気づかせる。

忍耐力のない男なら、その可愛さに一発で陥落するだろう。人数は数えたらキリがない。



「康煕どうしてるかな、心配してるかな。してるよね、多分・・・」



名前を思い出せたことで少し落ち着きを取り戻した千隼だが、やはり異世界で何の知識も持たない状態では寂しさと不安は拭いきれず・・・とうとう眼からはポロポロと大粒の雫が零れ落ちた。



「うぅ・・・こわいよぉ・・・こ、こう・・・きぃ・・・」



小さい頃から身近にいた幼馴染の名を泣きながら呟けば《にゃ~ん》と耳に届く。

一瞬、猫でもいるのかと周囲を見回してみたものの それらしい動物はいない。


また心細くてグスグス泣きながら幼馴染の名前を呼んでいると、今度はハッキリと聞こえたのだが・・・

どうやら、頭の中で猫の鳴き声が聞こえてくる。



《にゃ~ん:心に強く念じた人物を召喚するスキルを覚えました。谷仲康煕を呼び出すかにゃん?》


「・・・・・・・・・・・・ふぇ?」



確かに僕は、独りぼっちになって寂しくて長年一緒に学校へ通っていた康煕の名前を思い出せたけど・・・

ここに康煕呼べるの・・・?異世界って、そんな簡単に召喚できちゃうようなとこなの・・・?

僕、知識とか全くないけどそれって普通ないよね???


千隼の涙は引っ込んだが、新たな問題に頭を抱えるのだった。

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