第3話

この世界が何なのか分からない彼は、いまだ混乱の渦の中にいた。



「国って言ったけど、どこの国なの?せめて国の名前くらい教えてから途絶えてほしいよ・・・」



一番教えてほしい国の名前も、何故この世界で男とそういう関係をしなきゃいけないのかも、何もかも全く教えられないまま放り出された千隼が頭を抱えるのも無理もない。


嫌なことがあると、千隼は妄想という名の現実逃避をする癖がある。彼のスキルが《夢精》なのも、その辺りが関係しているのではないだろうか。


主に、同性からの『結城~!今日も可愛いなぁ~♪』『付き合ってるやついないんだろ?俺と付き合おうぜ!いいだろ!!』『お前見てるだけで、飯何杯でもいける!!』などなど・・・

最後の何杯でも食える発言は、もっと意味不だった。


千隼が理解に苦しむような内容ばかり口にする人が多すぎて、正直うんざりしていた。


関わらなくていいのなら関わりたくないと思っていても、微笑みながら伝えてくる大多数が後輩や先輩というのだから強く突っ撥ねることもできない。


そんなことを思いながら学校生活を過ごしていた彼が、いきなり異世界に辿り着くという思考停止してもおかしくない出来事に混乱しても仕方のないことだ。


千隼は、草原に座り込みながら思う。


学校へ行く途中で具合悪くなって倒れて、異世界なんて馬鹿げた夢見てるだけだよね・・・

ココは夢の中だから、普段の妄想で何とかやり過ごせば問題ないはずだよね・・・

えっと・・・、僕が倒れたってことは・・・あいつが心配とかするのかな・・・?

名前なんだったっけ???


実際には倒れていない。いないのだが……


一生懸命現実逃避してる千隼が気づくことはなく、混乱の中では逃避もうまくいかず疲れと不安だけが増していくことを知らない。


興味のあること以外無頓着で、それは物だけではなく生き物にも当て嵌まる。


長毛猫は大好きなのだが、爬虫類や短毛な動物は嫌いという・・・。


短毛動物や爬虫類動物が大好きだと豪語する人たちを敵に回しそうな発言を悪意なく言うのだから、千隼を深く知る同級生や幼馴染の康煕は気が気ではない。

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