キャッチコピー通り「悪意」のお話

 夏休みの宿題のため、友人とふたりで美術展を訪れた女子中学生のお話。
 百合にしてホラーです。百合にしてホラーなんですけど、どちらかといえばそれはジャンルや形式という面での話で、ごくごく個人的な感想としては、このお話から受け取ったものはそのいずれでもないような感覚があります。百合としての面白さより、ホラーとしての楽しみより、もっと別の強烈な何か。それって具体的に何、と言われると困るのですけど、少なくとも言えることとして、キャッチコピーにもある「悪意」にまつわる何かではあります。
 単に理解や共感ではなく、といって嫌悪や胸糞の悪さは細部でしかなくて、それを「考えさせられる」なんて言い方をしてはあまりに他人事っぽくなってしまうのですが、でも本当に。読後、彼女たちの振る舞いや考え方を何度も頭の中でシミュレートして、そこに感じる「わかる」という感覚とそして正解のなさ。実に味わい深いというか、悪意というものを描くにあたって、とても好みのアプローチだと感じました。
 確かに悪意なんですが、でも環境がそうさせた面もなくもない。言い訳のできてしまう一番タチの悪い悪意。でも他者にそれを抱かせてしまう側の無邪気な身勝手さも、それはそれでやはり悪意以上に悪質だと言えなくもなくて、そしてそこに一切の結論や答えを出さないまま、圧倒的に不可解な状況だけを残してぴったり閉じてしまう物語。ここがもう本当に大好きというか、こんなに綺麗な構成にできるんだなあと、なんだか惚れ惚れしてしまったようなところがあります。
 現象を見るとすっきりしないはずなのに、でもどうしてか心のどこかですっきりしてしまった、気持ちの良い後味の悪さを味わせてくれる作品でした。