おはよう朝ごはん。人生を始めろ

 皆さんは、朝ごはん食べる派ですか? 食べない派ですか? それとも「お前におかれましては鬼子なのでお前のぶんの朝ごはんだけはありません」派ですか? 最後のかたに関しては、強く生きてください。忌まわしき呪いの子め。

 さて、これは一般論ですが、朝ごはんは食べられるなら食べた方がいいです。朝ごはんが健康に与える実際的な影響に関しては諸説ありますが、毎朝その日を始めるためのルーティーンとしての朝ごはんの役割は、結構重要なんじゃないかと思うんですよね。
 朝起きて、席について、手を合わせ、飯を食う。そうじゃないにしても、出勤前や登校前に、コンビニパンなんかを買って朝日を眺めながら食べていると、何となく「今日も人生を始めよう」という気持ちになるものですよね。
 
 本作は、そういった儀式としての「朝ごはん」の話です。
 主人公のハナエちゃんが朝ごはん食べない派なのは冒頭のかなり早い段階で提示されていて、でも、注意深く読むと、それは何だかあまり自然でない描写に感じられるんですよね。
 もしや鬼子か? とも思ったんですけど、それもお母さんの言動を見る限り、どうも違うみたいで。そんな読者の疑念をよそに、ハナエちゃんが朝食べない理由は特に語られず話はそのまま進みます。
 そんな感じで、軽く明るい文体に程よく散りばめられた、物語を読み解く鍵を拾いながら誘われるように読み進めていくと、ある時点でぱちぱちと全体像が組み上がる。それがすごい快感なんですよ。
 その後の、裾の処理というか、終わらせ方も素晴らしい。ちょっとの間目を閉じて、余韻に浸っていたくなる読後感。
 万人におすすめできる作品です。

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