第6話今と昔

 アロと呼ばれるようになった僕は恵まれた幼少期を過ごした。

 柔らかなベッドの上で目覚め、美味しい食事を食べ、上質な服を纏い、高度な教育を受けた。


 そうして10歳となった僕と妹のアニは二人きりでベッドの上に寝転んでいた。

 普段ならばメイドが2、3人部屋の隅で待機している。メイドたちがいないのはアニが人払いをしたのが理由だ。



「話があるの」



 そうやって話を切り出したアニの顔には僅かな緊張が見える。

 まつ毛が触れ合いそうなくらいに近い僕らは柔らかくお互いをハグしあっている。

 アニは基本的に僕との距離が近い。そして彼女は話を続ける。


「アロは前世のこと、覚えてるいでしょう?」


 そうしてアニは僕の耳元でそっと、アロというこの世界での名前ではなく、日本にいた頃の名前を囁いた。


 その瞬間僕の頭は驚きと混乱で満たされた。アニの囁きが脳内に直接、この驚きを流し込んだかのようだった。


 僕が冷静になり前世のことを知っている理由を尋ねる前にアニは言葉を続けた。


「私は日本にいた頃のあなたの彼女よ」


 そうしてアニという名前ではなく、日本にいた頃の彼女の名前を告げた。


 そのあと混乱が抜けきらない僕は、確認のために様々な質問、例えば僕や彼女の家族構成やもっと詳しくプライベートなことを聞き、アニが彼女であるということを確信した。


 あまりの驚きのために、その時僕は気づくことがなかった。

 


 なぜ彼女は僕が前世の記憶を持っていること、そして僕を僕だということを知っていたのかを。

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エンジェル・メーカー @Keine

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