第14話

俺たち三人は、ダンジョン探索を終えて探索者ギルドにいた。

疲れてはいるけど、探索後の面倒な手続き作業をしなければいけない。


「お疲れ様です」


「あー疲れた」


「疲れたわね」


「もう帰って寝たいです」


今回の受付の人は、瑞奈さんではないようだ。

初めて見る男性の職員で、ぼっーとしていてやる気のない様子だ。

探索者ギルドにいる人の少なさを考えると、それも仕方ないのかもしれない。


「これで今回の手続きは終わりです。報酬と初回ダンジョン探索報酬をどうぞ」


「わあ、こんなの貰えるのね」


「あたしはいらないから、金は二人でわけな」


「前回よりも多いと良いけど......」


師匠は舞花に手続きの仕方を実際にやって見せながら、丁寧に教えていた。

俺の時とは扱いが違う気もするけど、状況を考えたら仕方ないだろう。

あの時は初心者である舞花がいたから、俺は放置されたのだ。


「さてと、透と舞花。これで探索者として教えられることは一通り教えたつもりだ。後は自分たちで何とかするんだ」


「えっ、師匠、早くないですか?」


「私なんて一回しかダンジョン潜ってないわよ」


探索者として必要になるのは、罠の解除方法とモンスターへの対策だ。

確かに俺は師匠から、その二つどちらも教わったつもりではある。

ただ、もっと指導をして貰えるものだと思っていたから、いきなり終了を言われて驚いた。


舞花も俺と同じ気持ちだったらしく、師匠に対して訴えかけていた。


「探索者は人手不足なんだ。初心者として最低限のことを教わったら、後は自分でやるしかない。私の時なんて指導者すらいなかったぞ」


師匠が探索者になったのは、ダンジョンが誕生してからすぐだったらしい。

そのため、指導出来る人もいなく手探り状態の中で探索者となった。

そう考えると、わずかではあるけれど指導をして貰えたのは運が良かったのかもしれない。


「分かりました......。師匠、ありがとうございました」


「ありがとう......」


「独り立ちするお前たちにこれをやる。使い方は魔道具屋で聞くんだ」


俺は感謝の気持ちを師匠に伝えた。

舞花は思うことがあるようだったけど、同じく感謝を伝えていた。


師匠は、独り立ちする俺たちにあるものをくれた。

魔道具だとは思うけど、詳しい使い方などは分からない。

これに関しては、後で魔道具屋に行ってから聞くしかないだろう。


「透、舞花、これだけは覚えておきな。探索者は辛い仕事だが、それ以上に魅力のある仕事でもあるんだ。それを見つけられたら、きっと良い探索者になれる」


「はい、師匠......」


「それ以上の魅力?」


師匠はそれだけ言うと、探索者ギルドの入口へと向かった。

師匠は探索者として、経験もあれば実力もある。

そのため、忙しいのだろう。その忙しい時間の中で、俺たちに指導をしてくれたのだ。


「行っちゃったわね」


「そうだね」


俺と舞花は探索者ギルドから出て行く師匠を見ながら、そう言った。

これまでは師匠が隣にいた。だが、これからはそうではない。

一人でダンジョンへと潜って、一人で探索をする必要がある。


今の俺にそれだけの実力があると思うほど、自惚れてはいない。

確かに俺の【危機察知】であれば、探索者としてやって行けるようになるだろう。

だけどそれは、今すぐにと言うことではない。


今の俺には、実力と経験どちらも足りていない。

そこまで考えて、隣にいる舞花を見た。

舞花も俺と同じような状況で、これからを不安に思っているかもしれない。


同じ師に教わり、少しだけど時間も共有した。

これは、すごく運が良かったかもしれない。


「なぁ舞花」

「ねぇ透」


「どうしたの?」

「どうしたのよ」


俺と舞花は、連続して会話が被った。

俺たち二人は、意外と相性が良いのかもしれない。


「あんたが先に言いなさいよ透」


舞花は、俺に先に発言を譲ってくれるようだ。

相変わらずツンとした態度ではあるけど、最初よりは何となくだけど、舞花のことが分かる気がした。

舞花は、連続して会話が被ったことで照れているのだろう。


「俺とパーティーを組まないか?」


「えっ?」


パーティーとは、冒険者であれば一般的なものだ。

協力してダンジョンに潜り、自分一人では出来ないことを補い合うのがパーティーだ。

今の俺一人では、ダンジョンに潜るのは難しいだろう。


しかし、同じような状況の舞花と組めば結果は違ってくる。

【危機察知】も【察知】のスキルがあれば、より安全にダンジョンを潜れるようになる。

なによりパーティーを組めば、一人で負担することを分散することが出来るのだ。


誰でも良いわけではない。

同じ師に指導をして貰い、同じダンジョンに潜ったことで舞花のことを少しだが分かった。

そして、舞花となら良いパーティーが組めると思ったのだ。


「どうしたの? 嫌だった?」


「ううん、違うわよ。うん、そうね。透がどうしてもって言うなら、組んであげても良いわよ」


「ありがとう舞花!」


「どうしてもって言うなら、仕方なくよ」


舞花は、俺とパーティーを組むことに同意してくれた。

これでダンジョンを行く時に、より安全に探索を行えるようになるだろう。


舞花は仕方なくと言ってはいたけれど、顔はそう言ってはいなかった。

笑顔でとても嬉しそうな表情をしている。


「ところで、舞花は何か言いかけてなかった?」


「あ、あれね。なんでもないわ」


確かに先ほど舞花は何か言いかけていたけど、言いたいことは無くなったみたいだ。

何を言いたかったのかは今になっては分からないけど、後で思い出すかもしれない。

その時にでも話を聞けば良いだろう。


「それよりも! パーティーを組むってどうするの?」


「まずは、探索者にパーティー制度があるのか確認かな。あるならギルドに登録しよう」


「えっ? 探索者はパーティーないの?」


どうやら舞花は、冒険者と同じように探索者にもパーティー制度があると思っていたみたいだ。

もちろんパーティーを組まなくても、ダンジョンに一緒に潜ることは出来る。

しかし、パーティーを組んでいた方が報酬分配やそれ以外でも何かと便利なのだ。


その後、探索者ギルドの受付に確認をした。

探索者にもパーティーと言うものはあって、新人同士などで組むことが多いらしい。

また、熟練の探索者は冒険者と組むこともあるみたいだ。


ランクの高いダンジョンでは、探索者と冒険者が協力して攻略を行うこともあるらしい。

そんな話を受付で聞くことが出来た。


俺たち二人は、早速パーティー申請を出して受理された。

パーティー名を書くことも出来るけど、恥ずかしくて特に決めることは無かった。


「舞花、これからよろしくね」


「透は足を引っ張らないでよね」


こうして俺と舞花は、新人探索者同士でパーティーを組むことにした。

一人では難しいことでも、二人であれば解決出来るだろう。


「私たちの冒険は今からスタートよ!」


「俺たちなりに頑張ろう!」

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