第13話

「はぁはぁ」


「後ろは、はぁ、大丈夫みたいですね」


「もう走れないよ」


俺たちは、何とかスケルトンから逃げることに成功して、一休みをしていた。

走って逃げているうちに、先ほど分岐で右に曲った所まで戻って来ていた。

スケルトンはそこまで足の早くないモンスターなので、これだけ距離を取れば大丈夫だろう。


「おい舞花、確実じゃないなら先に言えよ」


「言ってたじゃない、多分って......。私のスキルは波のようなものを飛ばしてモンスターを見つけるのよ。だから、物陰とかにいると分からないの」


師匠は舞花に対して文句を言った。

すると舞花は、自分のスキル【察知】についての説明を言い始めた。

話を聞いていると、どうやら【察知】はそこまで使えるスキルでもないようだ。


舞花の【察知】は、自信を中心として半径10m程度に、魔力波のようなものを飛ばしてモンスターの居場所を探るらしい。

そのため、何かの物陰やダンジョンの壁などで隠れていると、見つけることが出来ない。


便利なのは確かだけど、それを過信するのは危険のようだ。


「全く、それ含めて先に言え」


「まぁまぁ師匠、舞花のおかげでここまで来れたんですし良いじゃないですか」


舞花が注意はされているけど、実際にここまでモンスターと遭遇しなかったのも舞花のおかげだ。

そのことも考えると、今回のミスは仕方ないだろう。

だけど、師匠には師匠なりに思っていたことがあるらしい。


「透は甘ちゃんだな。あれがスケルトンだったから良かったが、逃げられないようなモンスターだったら終わってたぞ」


「ごめんなさい......」


「まぁ、初めてだし仕方ないな。次からは気を付けろよ」


そんなこんなで、師匠の舞花に対する注意は終わった。

指導者がいる環境でのミスは、結果としたら良かった。

これが一人での探索だった場合、ミスは死に繋がる可能性がある。


だからこそ、探索者の初心者には指導者がしっかりと教えることになっているのだろう。

やっぱり師匠には感謝しなければいけない。


その後、暫くダンジョンを歩いていると【危機察知】が反応した。

近くにモンスターの気配もないので、恐らく罠だ。


「師匠」


「あぁ、罠だな。丁度良いな」


師匠は、俺が言うよりも先に罠の存在に気付いたらしい。

手で俺たち二人に、止まるように指示を出してくる。


「舞花、目の前に罠があるからよく見ておけ」


「わ、分かったわ」


ここまでモンスターには遭遇したけど、罠の発見には至っていなかった。

そのため、舞花に罠がどんなものでその解除方法を見せることが出来ていなかった。

師匠は、それを考えて罠解除を実践して見せようとしているのだろう。


「よし、透やってみろ」


「え? 師匠がやるんじゃないんですか」


「アホか、透は罠解除見ただろ」


どうやら師匠が罠を解除するのではなく、俺がやるみたいだ。

前回のダンジョンで罠解除の手順は見ていたので、知っている。


まずは、その辺に落ちている石を拾って投げてみる。

【危機察知】が反応しているのも床なので、その付近に投げれば反応するだろう。

投げた石が地面に落ちたけど、特に変わった様子はなかった。


「うん?」


「まぁ、見てて舞花」


舞花は、俺のした行動に疑問を感じているようだった。

石を投げれても反応しなかったので、ウエストポーチから魔道具を取り出す。

この魔道具は、前回のダンジョンでも使った調べる君と言うものだ。


「鈴?」


俺は、取り出した調べる君を振って音を鳴らす。

すると調べる君は消えて無くなり、モヤのようなものが出現する。

そのモヤは、目の前の【危機察知】が反応している辺りと、壁付近の二ヶ所に分かれた。


舞花は、現れたモヤを見てなにこれと驚いている様子だった。

それに構わずに壁の方を見ると、モヤがある場所は他とは色が違って見える。

前回のダンジョンでは見ることは無かったけど、恐らくこれがスイッチタイプの罠だろう。


「師匠、押しますよ」


「舞花、少し下がってな」


「え? え? なんなの二人して」


スイッチタイプの罠を解除するには、押さなければいけない。

その事を師匠へと伝えると、師匠は舞花を後ろへと下がらせた。

俺は、モヤがある辺りつまりは壁の色が違う場所を触ると、カチと音がした。


直後、もう一ヶ所のモヤがある辺りに下からトゲが出現した。

そのトゲは天井まで突き刺さるほどのもので、当たれば死んでいるか重症になっていた。


「これは恐ろしいですね」


「何なのよこれ」


「まぁ、スイッチタイプだから押さなければ大丈夫だがな」


危険か罠ではあるけど、師匠の言う通りに押さなければ危険はない。

しかし、探索者は見つけた罠は出来るだけ解除しなければいけないのだ。

ランクの高いダンジョンで命の危険がある場合を除いては、後に潜る冒険者のために罠を取り除く必要がある。


その後、師匠は舞花に対して俺にしたのと同じように罠の説明をしていた。

舞花も納得したように、先ほど見た光景を思い出しながら何かを考えているようだ。


「なるほどね、罠解除も仕事なのね」


「次に見つけたら舞花にやって貰うからな」


舞花はえーと答えながらも、罠についていろいろと考えているみたいだった。

初めて潜るダンジョンでいろんな経験をすることで、少しずつ成長していけば良いだろう。

俺も初めは何も出来なかったけど、師匠に教わることで出来るようになって来た。


その後、見つけた罠は舞花が担当することになり、無事に解除することが出来た。

見ているこっちが焦ってしまうような、危なっかしい解除だったけど、結果は成功した。


それ以降は特に変わった様子もなく、ダンジョンの一階を見て回って地図を埋めていく。

奥へ奥へと潜って行くと、俺も初めて見るものが現れた。


今、俺たちの目の前に階段がある。

ダンジョンによっては、複数階層があるらしいと聞いている。

今回潜ったダンジョンは、どうやらそれに該当するらしい。


「今回はここで撤退だな」


「えー、下には降りないの?」


下へと続く階段を前にして、師匠はそう言った。

師匠はこれ以上潜る気は無いらしく、それに対して舞花は不満がありそうだった。


「ダメだ。これ以上潜ればダンジョンで一夜を過ごすことになる。今回はその装備は持って来てないから、ここまでだ」


複数階層あるダンジョンを探索する場合には、宿泊用の準備が必要となる。

しかし、今の俺たちにはその準備も装備も整っていなかった。

だから師匠も、ここで撤退することにしたのだろう。


「舞花、魔力測定計を確認してみろ」


「どれどれ......。これね、Eランクダンジョンだね」


「よし、撤収するぞ」


師匠に言われて舞花が魔力測定計を確認すると、このダンジョンはEランクだった。

EはEでも、前回潜ったダンジョンよりは難易度は高いだろう。

ダンジョン内部の複雑さやモンスター、罠の種類を見てもそう思った。


「舞花、諦めて帰ろう。これ以上は無理だよ」


「仕方ないけど、確かに今の私たちじゃ無理わね」


舞花は、下へと続いている階段の方を見ながらそう言った。

こうして俺たち三人は、ここでダンジョン探索を終了して地上へと戻ることを決めた。

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