6. 7丁目
ぼくは毎日同じ通りを歩く。
真っ青な空と眩しい光でクラクラする朝も、薄曇りの朝も、今日みたいにうっすら景色にベールがかかったような霧がいっぱいの朝も。
そして必ず左側を気にする。あと三つ角が来たら、あの店がある。
もうすぐ、7丁目と書かれた電信柱がやってくる。
この通りも昔は、それは大きな商店街だったらしい。ほとんどの店が廃業したようななかでも7丁目だけは少し店が残っている。
八百屋だったらしい錆びたシャッターの降りた店。古くて小さいクリーニング店。よくわからない季節の饅頭を売る黒く煤けた和菓子店。背中の曲がったマダムのいる、なぜだか小洒落た惣菜屋。その次の角、自動販売機の横に小さな窓からやり取りするタイプの煙草屋。
さて今朝の彼女は。
「おはようございます。」
まともに目が合う。黒曜石のような瞳が煌めいてる。
会釈もまともにできず、僕は足を止めた。
「をちかたからいらっしゃったの?」
ノロノロと、煙草屋の方に歩みながら、僕は曖昧に微笑んだ。
蝋が溶けるが如く、色んな思いが胸によぎる。
「うまい具合に言えないんですが、僕とデートしてくれませんか。」
7丁目の美人 仮墓地ヤン @kabotyann
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