両親を亡くし親戚に引き取られた不遇の少女が、散々にこき使われる日々の中で〝影〟と交流するお話。
ホラーです。と、完全にそう言い切ってしまうとたぶん語弊しかないのですけれど、でも相当にホラいです。ジャンルは現代ファンタジーとなっており、もちろんその通りの内容ではあるのですが、でも登場するものがどう見てもホラーのそれというか。だって作中の「影さん」がどう考えても〝あちら側〟の存在、読者の胸の奥をゾワゾワざわつかせてくれるタイプの何かなんです。つまり『読者に恐怖を提供することを主目的とする作品』という意味でのホラーではないのですけれど(たぶん)、でもそれ以外はホラーだと思います。手触りとか味わいとか。
で、その上でタグにある通りの「ハッピーエンド」をやってしまうのですからとんでもない。
以下はその結末に触れるためネタバレ込みの内容になります。
これがハッピーエンドしていること、そう読まされてしまうことがもう凄まじいです。だってこれ普通に考えたら絶対ダメなやつで、少なくとも〝あちら側〟に取り込まれているのは確実なはずで、つまり普通ならバッドエンドの要素しかないはずの幕引きが、でも一切の疑問も含みもなく「よかったね」と思える。しかもそれが自然になされているので最初はなんとも思わなかったのですけれど、でも考えれば考えるほどすごいというか、いやなんでしょうこれだんだん恐ろしくなってきたんですけど?
というのも、たぶんこのお話、ホラーとして(=読者を怖がらせるのを主目的とした話として)書いたらそのままホラーになっちゃいそうに見えるんです。
というか、現状でも結構ホラーしている。作中の「影さん」はざっくり言えば、主人公を苦境から救い出す超常的な存在としての役割を果たしているわけで、言うなれば「魔法使いのお婆さん」や「無敵のヒーロー」と同じ役回りのはずが、でもそんな要素は一切ない。救済をもたらす存在なのにポジティブに書かれていない。徹底してただ〝正体不明のあちら側の存在〟としてのみ書かれて、というかどう読んでも本当にただの怪異そのもので、にもかかわらずのハッピーエンド。あれっどういうこと? 自分はいま何を読まされた? いや読了時点では普通に(もちろん多少のゾッとするような手触りは残しながらも)「よかったー」ってなってたんです。でもこうして内容を意識的に振り返ってみると、どんどん困惑が増していく。
たぶんこれ、ほぼホラーそのものの話を「素敵ないい話」として読まされてるんです。でもですよ、だとすれば今の自分はもしかして、怪異に魅せられている人間と同じ状態なのでは……? そんな疑念が拭えないというか、いやすみませんやっぱりこれホラーだと思います。たとえお話自体がファンタジーであっても、彼女に取ってはそうだとしても、でも読んだ時点で一個上の次元でホラー化しちゃう……というか、彼女は救われたのに自分だけホラーの中にいるんですけど? おかしくない? おうち帰して?
いやもう、凄かったです。個人的な趣味に寄りすぎた読み方かもしれないですけど、本当に。
あと最後にどうしてもここだけは言いたいのですけれど、終盤点前で明かされる真実が好きです。本当は彼女自身わかっていたこと。眠いばかりの素直な子だと思っていたのが、でも突然開示されるあからさまな欺瞞。嘘そのものよりも「これくらいの嘘なら自然に吐ける」という事実、暗黙の何かを破壊するレベルの鈍器で頭を殴り付けられた瞬間の、あのびっくりするくらいの気持ちよさ。最高でした。彼女、ワーリカさんの眠りが永遠に幸せでありますように。