あなたには強烈な依存性が見込まれます

ちびまるフォイ

目の前の小さな被害を止めるすべ

「最近、とくに街を歩いているとよく声を掛けられるんです。

 道を教えてあげたり親切にしたりすると、

 そこからもずっと付いてこられるようになっているんです」


「なるほど……ガンマ線検査の結果、あなたには強い依存性が認められます」


「というと?」


「あなたの人当たりの良さ、優しさ、ルックス……などなど。

 そういった要素が神がかり的に調和して、

 あなたに関わった人間はあなたに依存してしまいがちになるんです」


「そういえば……別れた彼女も今でもずっとストーカーしてきています」

「依存しているんですよ」


「先生、ありがとうございます。自分の状態がわかったのはよかったです。

 それじゃ僕はこの後用事があるんで……」


立ち上がろうとするその腕を医者が引いてとめた。


「まあ、そう急がなくてもいいじゃないですか」


「いや用事が……」


「これから大事な話をしますので。

 もっと留まってくれたら多少の治療費もお安くしますよ。

 だから、ね? もう少しだけここに居てください」


「い……依存してる……!」


医者を振り払って外に出た。

なおも連絡先を聞こうとしてきたのが怖くなった。


横断歩道を渡ろうとした時、ちょうど赤信号で阻まれた。

青色になるのをじっと待っていると周囲に人が集まり始めたのがわかった。


信号は青になる。

しかし、誰も動かない。


自分が一歩踏み出すと、その後ろを信号待ちをしていた数十人がついてくる。


「あ、あの……僕に、なにか?」


声をかけたのは失敗だった。

後ろについてきた人につながりを与えてしまい、ますます依存させる。


「実は〇〇の店に行きたいんですが道がわからなくて」

「よければこのティッシュを受け取ってください」

「これからどこへ行くんですか? 奇遇ですね、私も同じです!!」


理由などはどうでもよかった。

単に自分という人間に近寄る口実さえあればなんでもよかった。


「僕ひとりで行きたいんで!」


「ああ、待って! どうかうちの子の名前をつけてください!」


自分の依存臭に引き寄せられた主婦の大群をふりきり路地裏に避難した。

後ろばかり見ていたので前にいる人に気づかずにぶつかってしまった。


「あ、すみませんっ」


「……お前、▲▲だな?」


「ええ、それは僕の名前ですが……」


「麻薬人間の単純所持で逮捕する!!」


「えええええ!?」


ぶつかった相手は警察官だった。

手錠を掛けられて警察署まで搬送された。


「麻薬人間の単純所持っていったいなんなんですか」


「お前の強い依存性が放たれていることで

 多くの人間がお前に依存して日常生活が破綻しているんだ」


「そうですか……それなら、仕方ないですね」


「お前……怒らないのか? お前が悪いというわけでもないだろう」


「いいえ、人間はもともとなにかの生物の命を奪って生きるように

 自分では意識しない部分で迷惑をかけるところもあると思います。

 そして、僕はそれがこの麻薬人間という特徴だったということですから」


「ぐぁっ……! 自分が理不尽な理由で逮捕されてもなお余裕のある振る舞い……!

 ダメだっ……! こんないい人に会ったら……依存してしまう……!!」


必死の抵抗もむなしく警察官も人間依存にあてられてしまった。


「ということで、一級犯罪者であるお前には

 スイートルーム独房を用意して一日中私と生活をともにしてもらう」


「え、警察官さんも独房に入るんですか」


「当然だ。いつ脱獄するかわからないし、お前は非常に危険だから

 年中無休で私が一緒に生活してしっかりと監視しなければならない」


「は、はあ……」


「それより腹減らないか? いきたい場所は? 欲しいものは?

 貴様のためなら何でも買い与えてやろう」


「それじゃここから出してもらえますか」


「お前がそれを望むならなんでもしてやろう。

 ただし、外に出てもずっと私のそばを離れるな。絶対だ」


自分に依存してしまった人間は言いなりにすることができる。

でもそんなのは求めていないのであまり気分はよくなかった。


警察署の外に出ると、ひとりのガスマスクをかぶった男が待っていた。


「探したぞ……麻薬人間……!!」


男は準備していた刃物を取り出した。

状況を理解するよりも早く刃物が自分の体につきたてられていた。


「よくも! よくも妻をお前に依存させてくれたな!

 おかげで育児も家事も、自分のことすら放棄してお前にご執心だ!」


「ぐふっ……」


「お前さえいなければ、俺の家庭は壊れずに済んだんだーー!!」


ガスマスク男はすぐに他の警察官に取り押さえられた。

深々と刺さった刃物が明確な命の終わりを予告していた。


「おい、しっかりしろ! お前が死んだらいったい誰に依存すれば良いんだ!!」


「どうか……誰かに依存することなく……ひとりで生きてください……」


「こんな状況でも人のことを考えるお前の優しさにますます依存してしまうよ!」


「僕が死んだら……骨は人間に迷惑をかけない……海にまいてください……」


「本当はお前の遺骨も枕の中に入れておきたいが……それが最後の望みなら叶えるとも!

 それがこの世で一番お前に依存した人間との約束だ!」


「ありがとう……ございます……」


「麻薬人間ーーーー!!」


あまりに人を惹きつけ過ぎた人間の人生が終わった。


死体は火葬されることとなったが、その強い依存性で火葬場に飛び込む人が出てくるため

完全防護服を着た関係者だけでしめやかに行われた。


灰となった麻薬人間は警察官にツボを抱えられて海の沖にやってきた。


「ここならもう人間はいない。きっと静かに過ごせるだろう。約束は果たしたぞ」


警察官は海に向かって灰をまいた。

灰は海に還りキラキラと太陽の光を受けて反射していた。


警察官は海に向かって別れを告げると、船を引き返した……。






この後、海産物を食べた人がなぜか海に向かって入水する事件が発生することとなった。

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