第55話 サイとアーネス回想・1話のみ

 外は突然の通り雨、俺はアーネスとサイの寮室にお邪魔している。


「やぁ、さっきの返しに来たよ」


「あ、ガーグル、……そう」


 アーネスに講義で借りていた本を返しに来た。雨が降りそうだと受講後直ぐ教授に質問していたアーネスを先回りしていたつもりだったが、まだ戻ってないはずのアーネスが部屋いた。代わりにサイがいない。


 じゃぁ、あのアーネスは?


 寮室のベッドに寝そべって手紙を読んでいるアーネスに本を渡して、ドアに寄りかかって話しかけた。


「サイは食堂か? 最近、この時間食堂の女の子たちとよく喋ってるよな」


「……食堂ではないと思う」


「ふーん……なんで分かるんだ? 」


「いや、別に」


 アーネスの目が手紙からズレて泳いでいる。


 このところサイは食堂の女の子たちとメニューの話で盛り上がって、アーネスの受講時間に調理室に遊びに行く。サイの料理好きもあるが、この学生寮で唯一女の子と喋れる場所というのが大きい。


 同室にアーネスって美人がいるのに、サイは食堂の女の子たちと仲良くしてる。学内の他の男たちから「なんで、あいつばっかり」なんて、言われてる。


 わりとハンサムなのに無自覚だから愛嬌出しまくり。あれでモテようともするからなぁ……。


「ただいま〜」


 ドアを叩いてサイが入って来た。上を裸に髪や肩を雨に濡らし、脱いだシャツで大事そうに教材を包んでいた。水も滴る……なんとやら。


「あれ、ガーグル。お疲れ」


「あぁ」


 バサバサと教材を自分のベッドの枕の下ににしまって、サイは脱いでたシャツを片手に部屋を慌ただしく出て行ってしまった。


 アーネスがサイに声を掛けようとしているのも気がつかず、すっ飛んでいった。


 多分、あれは食堂の手伝いをしに行くつもりだ。雨が降り始めたから、アーネスとの剣の強制稽古は無し! と、決め込んでいるな……と察する。


「忙しいなアイツは」


 アーネスが黙っているので、サイの枕をめくると、さっき教授に質問していたメモが出てきた。二つの筆跡が混ざっている。教材はサイが受けてない、俺とアーネスが受けているさっきの講義のものだ。


 何やってるのこの子たち。


 サイは、いつも彼女欲しいと言ってる。アーネスはどうだと言ったら「多分とんでもない身分だし、俺のことは小間使いとしか思ってない」と。何にも知らないのかアイツ。


「アーネス」


「あ、なに」


「束縛しても気は引けないぞ」


「何の話だ」


 アーネスの肩がピクリと上がる。


「さっきのサイみたいに素肌でも見せたら、女の子たちはキャーキャー言うだろうに。アイツは鈍感だな」


「……」


 アーネスは手紙で顔を隠して考え事を始めたので、俺は退散した。


 後日、サイが死にそうな顔をしてフラフラしてるから声を掛けた。


「アーネスがこの最近、目の前で平気で着替えるんだけど、俺、小間使いどころか部屋の家具みたいになってきてる……」


 寝不足を引きずって目を赤くしてサイが困惑していた。健全な男子にはなかなか酷な……。


 俺は「好きなら好きと言わないと伝わらないで他の女の子に取られるぞ」って言いたかっただけなんだけどな。アーネスの実行がそっちになってしまったのか……。


 馬鹿馬鹿しくて放って置いたら、サイなりに慣れたのか寝不足からは解消されたみたいだ。サイの事は男として半分くらい尊敬しようと思った。

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「魔星の谷と竜王の牙」俺のお姫様がブラコンから卒業していない 炭 酸 水 @tansansui2019

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