第54話 それから
俺たちはお忍びレストランで、楽しく会食した。
ユーネイア姫が思っていたよりもよく笑うし、細いのによく食べる人だった。
いつかの焼き菓子のレシピを聞いたら、口をあわあわさせて顔を赤くした。マドリアス王子は大ウケしていたが、アーネスは俺とユーネイア姫のキス未遂に未だにヤキモチを焼く。
クリクとガーグルがマドリアス王子から話を聞いて色んな顔色になるが、最後はサイホーンの話になって二人は閉口した。俺も初耳だけど、サイホーン、俺の身体で何してくれてんだよ!
レシピは今度教えてもらえる事になった。アーネスもいっしょに習うって言うんだけど、家事全般壊滅的なので怖い。
そんな話で盛り上がって、だいぶお酒が入って来たのでアーネスと俺だけ先に帰る事にした。俺はお酒禁止。
噴水の広場まで戻ると、俺はアーネスと噴水の縁に上がって子どものように歩く。今日ここでずぶ濡れになった話を笑いながらした。
晴れた夜空に月と星が明るく、月光が噴水を照らして綺麗だ。アーネスも月明かりに輪郭を浮かばせて、凄く綺麗だ。
アーネスが俺の見て不意に不安げな顔をする。最近、俺の顔色を伺うようになった。
「何? 」
「サイは、本当は私との結婚は嫌じゃないのか? 」
全く嫌じゃないと言えば嘘になる。早く親を亡くして刀鍛冶士の先代のじいさんと暮らしていた。育ちはただの平民だ。
「……結婚出来た事の方が不思議だよ」
アーネスが欲しい言葉じゃなかった。俺はアーネスと向き合って、アーネスの腰の上で両手を握り合わせた。
待たせている馬車の御者、護衛たちが俺たちを見て見ぬふりをしてる。
「アーネスといられるなら」
不釣り合いでごめんねと、何度か言いかけて飲み込む。
近くのレストランから音楽が漏れて、噴水の水音を聴きながら、アーネスと見つめ合ってゆっくりとキスをする。シルエットぐらいなら、俺もアーネスに相応しい王子さまに見えるかも知れない。
噴水のしぶきが霧のように砕け細かく散ると、精霊たちがゆらゆらと舞うかのように……
「そんなに心配するなよ、アイネイアス」
俺が、アーネスの襟足から頭を押さえて首元に吸いつく。
「!? 」
アーネスの腰に回された腕に強い力が加わると、アーネスは身動いだ。抵抗が伝わると、俺はアーネスの首元を甘噛みした。
「……サイホーン!? 」
その名をアーネスが
「なぁ、初夜の時の俺はサイだったと思う? 」
アーネスの動揺を見透かすように俺はアーネスの顎下を撫でると、アーネスは思わず噴水へと俺を突き飛ばした。
派手に水しぶきが上がって俺が噴水に落ちると、アーネスも構わず水の中の俺を追った。
二人の顔が水面に上がる。
アーネスが俺の髪の毛の水を払うと、俺は「冗談だよ、ごめん」と、にっこりと笑った。
アーネスもずぶ濡れになって笑う。
二人で馬車の中を濡らして城へと帰った。
fin
と、言いつつ続きます。
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