第53話 お忍びになってない

 夕やけが美しいレストランのバルコニーで、本当にまったりのんびり……


 クリクなんか早々に昼寝を始めて、ガーグルも俺と一頻ひとしきり懐かしい話をしたが、仕舞いには長椅子に思いっきり脚をはみ出して寝始めるし。


 男三人で貸し切りのレストランは、給仕の女の子たちのヒソヒソ話が聞こえる。話題のネタはガーグルみたいで、どうやら騎士団の特別顧問として名前も顔も売れて人気があるらしい。ガーグルが惜しみもなくイケメンの寝顔を晒してるから、大変だ。


 俺は……人気ないな……と、まぁ、昼間の騒ぎもあるから顔は出来るだけ見せないように背を向けてはいるけど……。


 眼下に望む噴水のある広場には、告示人たちの集めた群衆は既に居ない。露店や商店、食堂から漏れる灯が少しずつ克明になっていく。


 そんな広場に、二台の馬車とそれを囲む馬上の護衛たちが止まった。


 先頭の一台からは、マドリアス王子とユーネイア姫、もう一台からはアーネスが降りた。


 行き先はここで、豪商の御曹司と婚約者とご令嬢風情の……ちっともお忍び感がない。


 ガーグルとクリクを起こして、俺は階段を降りてアーネスを迎えに行った。


 マドリアス王子とユーネイア姫に夕べの挨拶をした。


 その後アーネスに抱きつかれて、戸惑う。目配せでお姫様抱っこを要求される。


 誘う様な甘い目配せなんて覚えちゃって、困ったな。お姫様抱っこは一度やったら、かなり気に入られてしまった。


 レストランの上階までアーネスを抱えて上がると、みんなが待ち構えたようにしてて、バカみたいに笑われた。


 給仕の女の子たちまでクスクス笑ってるんだけど、誰か俺をカッコいいって言ってくれない!?

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