名もなき墓(エピローグ)
第30話
物語はこれでおしまいです。
最後の舞台は、物語が始まったあの砂漠の田舎です。
数日前にアメリカ陸軍レンジャー部隊の急襲を受け、何人もの死者を出した哀れな捕虜収容所です。
あの後、イスラミック・ステートはこの施設を破棄しました。地に倒れたアレックスをはじめとした人々は、顧みられることはありませんでした。
気の毒に思った村の住民が、攻撃で朽ち果てた屋敷の庭の片隅に、亡くなった人たちを埋葬しました。そうでなければ腐臭がして、肉食動物や鳥たちの餌食になることが分かっていたからです。
彼らがその場所を埋葬地に選んだのには理由がありました。そこには既に、誰かの墓らしきものがあったからです。彼らは知りはしませんでしたが、その墓らしきものは本当のお墓だったのです。
捕虜収容所所長であった片腕のマフムードは、自分達が処刑した人質の墓をそこに作っていたのでした。自らがそこに埋葬されるとも知らずに。
というわけで、物語の始まりだった屋敷には、イスラミック・ステートの死刑執行人である、ダブリンの郵便屋の倅のアレックスも、ムジャヒディンの戦士だった片腕のマフムードも、そして類稀なるバイタリティーを持ったフリージャーナリストの佐藤芳郎も、同じように眠っています。
大国の意思や、歴史の経緯も関係なく。ただ、静かに。
そこに陽が差し風が吹いて、乾いた一陣の砂埃が巻き上がりました。
そしてその墓の脇には、やはりあの方が、何も仰らずにただ、立っておられましたとさ。
おしまい、おしまい。
<了>
錨は巻き上げられ、炎の時代が始まる フカイ @fukai
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