魔法少女の王国

もりさん

魔法少女の王国

何を思ったか、おっさんと差し向かいで酒を呑んでいる。


この魔法少女になり損ねの私が、何でこんな冴えないジジイと呑んでいるのか、謎でしか無い。でも、私が誘ったんだけど…。


昔の私は、全人類ヌイグルミ計画という構想をブチ立てていた。


その計画とは、つまらん日教組かぶれの教師と闘いながら、勝利した暁には、敵を全て、愛すべきかわいいぬいぐるみに改造する!変える!という、平和計画。そんな野望を抱えていた。


なにせ、私は正義の魔法少女だから。


私が愛とか正義とか、夢見がちなJK、学生時代。それを話すと、ビッチな親友は、それ、悪の組織じゃん!?


と、言ってゲラゲラ笑った。


コノオンナ、ビッチは、ほんとにつまらない奴で、つい最近、オトコと初めて経験したという。


元々、好奇心旺盛な奴だったから、興味が優ったんだろうなと思っているが、まぁ、鼻に付くのは、私、大人になりましたわよ?という、ふわっとした自信?ふわっとした自慢?が、見え隠れすること。


いやー、ホントにオトコ、最高。

もう、愛されてる感半端ない!


もう、ほんとに…。

私は、おまえとそんな話をするためにこの世に生を受けたわけではない。


コノメスブタ。


好きだった親友は、もう、ぶよぶよの性欲マシンにしか見えなかった。


ほんと、クソ。

そう心の中で呟いた瞬間に彼女が背後で「毎日彼の家で求められてー」とそんな羞恥心がアルコール並みに揮発してるのかな?という疑いをもたれるような、てらてらと脂ぎったババアのような声が聞こえた。


まだ、私はコノメスブタと親友のふりをしている。


相変わらず、一緒に途中まで帰りながら、欲しいコスメの話とかしてるけど、彼女はもう、私の仲間の魔法少女ではない…。


彼女が手を振る。

またねー!明日ね!


私は笑みを薄っぺらな表情に貼り付けて、手を振る。私は思い出していた。

ビッチの嬉々とした声。


すっごい気持ちいいの!

あの人の手がさー。

中に入ってきたとかさー。


嘘言うなよ。ビッチ。

私は全然気持ち良くなかったぞ?


あいつさ、結局自分だけいってしまって、変な喘ぎ声出して雰囲気出してるつもりかもしれないけど、余裕ない感丸出しで…。


逃げるように帰っていったんだ。


あいつさ、目も合わせずに言ったんだ…。


俺とヤラね?


そんな軽い言葉で約束して、私の体をちょっとだけ撫で回して腰を振って漏らしたくらいのものを持て余して…逃げ帰った早漏は、ちっとも私を愛してくれていなかった。


でもさ、約束した時、ぞわぞわしたんだよ。

世界って変わるかもって。

この子に抱かれたら、私は完全になるのかもって。


魔法少女は、愛で闘う戦士だから、私、めっちゃ強くなるんだと思ってた。


あの、チャラいメスブタ彼女がいるオトコが、私に夢中になって、チャラく見えていたけど、彼は、一生私を命がけで守ってくれて…。


私は、生涯、ずっと彼に守られて幸せになれるんだと微かに思っていたんだ。

めでたしめでたし。

私は、語り継がれる伝説になるはずだったんだ…。


でも、アイツは、私の身体の中に何回か突っ込んだだけでドロリと漏らしちゃったレベルの欲を落として、自分だけスッキリして、我にかえるように、逃げ出すようにして帰っていった。


私は、守られないまま、置き去り。


私の部屋で…。

勉強ができないと愛してもらえない、つまらない家族の中に、罪悪感に塗れて剥き出しで置き去り。


なぁ、ビッチ、教えてくれよ。

愛があれば、私はあの初体験を宝物を見せびらかすように。お前のように、勝者みたいに振る舞うことができたのか?


ビッチ、お前、実は気持ちよくなかったろ?

セックスが死ぬほど気持ちいいなんて、あるわけない。もう、トラウマレベルで気持ち悪い。


いつもふかしてるタバコも、何がうまいもんか。

ドロドロのタールを肺に入れて、どす黒い身体になって、肺がんになって死ぬだけだ。


この歳でオトコを咥え込んでる女なんて、タバコのそれと一緒だよ。パッケージにも、きちんと書いてある。


くしゃくしゃになった、明るいミドリの、わかば。丸みを帯びたロゴのパッケージ。


わかば、可愛くて、弱いタバコ。

私が初めて肺に入れて、むせかえったタバコ。


もうすぐ、生産中止になるんだって…。


そして、茶色くなって、外側だけ変わって、また、販売されるらしい。


なぁ、わかば、おまえ、オトコと一緒だな。

可愛くて大好きだったのに、変にダークサイドに堕ちたみたいに茶色くなっちまって、それ、全然かっこよくねーし…。


マルボロ

ラッキーストライク


セブンスター

ピース


ゴールデンバット

ダンヒル


いきりきった、厨二病みたいな横文字並ぶ棚の中で、明るい緑色の『わかば』が好きだったのに…。


われにかえると私は酔っていて、そんな詩的な表現で彩られた話をハゲ頭のクソジジイにしている。


「ゑりちゃん。えろいなー!」


おまえもな!と不機嫌を隠すこともせずに、ハゲ頭を平手で勢いよく叩く。ホントはグーで殴りたかった。でも、魔法少女は「ばかー!」とか言いながら平手でぶつのが定番なので、グーは使わない。


あたりに派手な音が響いた。周囲の視線を集めたことだろう。


平手を使ったおかげで、手がぬるぬる。手についたおっさんの頭の脂をおしぼりで、丹念に拭きながら、猥褻な頭しやがって。と、毒づく。


「そのあと、めっちゃいろんな人とセックスしたん?」

「はい、ジジイセクハラー!賠償金壱億円!

死ぬまで私に貢げ!」


「無理やなぁ。じじいやしな。」


離婚歴のあるジジイは、私の上司で、気のいい奴だ。


どうも、若い奴から罵られるのが好きらしい。内緒でSMの女王の優奈ちゃんところに行ってないか心配だ。あそこは、ガチのSMクラブだから…。


そういうと、ジジイは「こんなん許してるのはゑりちゃんだけやで?」とつまらん冗談を言う。


私は、来月結婚する。

仲人をこの離婚歴のあるジジイに頼みに来た。なのに、何故?

新婚初夜が控えてるこの私に!愛のあるゴムなし生セックスを控えてるこのキラキラリア充新婦の私に、無残な初体験を語らせてるんだと…。


腹が立ってきた。


そんな話をしてると、彼が〈もうちょっとで合流できるよ〉とメッセージをくれた。

私は〈嬉しい!待ってる!〉と返事を返す。


少しは、可愛げがある婚約者のふりをすることができるようになった。


この人になら、媚を売るようなことも自然とできた。


彼は、いつも苦笑いをするけれど。


私は、多分、恋をしてる。

史上初の恋をしている。


私が世界を認識してから初めての恋だ。


暦に採用されてもいいレベル。


ゑり恋誕生暦。以前と以降。


多分だけど、私が魔法少女になれる日も近いんじゃないかと思っている…。成人してやっとだ。長かった。


少女になるのにこんなに時間がかかるとは思わなかった。


彼からメールが再度届いた。

〈ねぇ、ごめん、仲人さんになってもらう人って、離婚して一人の人でもいいのかな…。夫婦じゃなくてもいいの?〉


キモい上司の頭をおしぼりを使って、退屈しのぎに拭きながらメッセージを返す。


〈多分、このジジイが最適だと思う…〉


返ってきたメッセージは、わかった…。とひとこと。


絶 対 に わ か っ て な い よ ね 。


結婚式は、恐らく、ドロドロの放し飼い人間関係サファリパークになる予定。私、プリキュアのコスプレしたいんだけど…。


既にぶくぶく太ったメスブタビッチにも、招待状を送らなきゃと、義務感のように思い出していた。

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魔法少女の王国 もりさん @shinji_mori

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