004 「んー、依頼人?」
「バート君久しぶりー。」
ギイギイと軋むスイングドアを勢いよく開けながら、顔馴染みの経営する宿屋に突撃する私と少年。
この村の宿ももう何度目だろうか、数えるのももはや諦めた。
竜車から降りた私達は、とりあえず暫くの宿を確保するためにこの店へ来ていた。
掃除が行き届き、埃ひとつない小綺麗な床と棚。
見た目よりも耐久性を重視した、無愛想なテーブルと椅子が雑に、それでも整然と並んでいる。
私と同じような越境者と思しき旅人が数人見えるが、客はまばらだ。
まだ日も高い、この店が賑わうのは夕方以降からだったかな。
「おお、メイか。相変わらず小せぇな。」
暇そうにしていたバートこと、ハゲ頭の店主がこちらに気付き、挨拶を返す。
「・・・おや?その子は?」
私の後ろで、店内を物珍しそうにきょろきょろしているケルヴィンを見つけ、バートが不思議がる。
「んー、依頼人?」
独り身の私が誰かと一緒に居るのは、言われてみたら珍しい。
それが子供なら、尚更だろう。
「・・・まさか誘拐して来たんじゃねぇだろうな?」
馬鹿な事を言う。
「人聞きの悪い、人買いの商売はしてないよ。」
「あっはっはっは。すまねぇすまねぇ。」
笑えない冗談だが、こういう気軽さがバートの良いところではある。
初めてこの宿に寄った時は、私の事を迷子の少女と間違えてくれやがりましてそれはそれは大変だったのを覚えている。
果てには歳が殆ど変わらないのが分かった時は魔物の類とか・・・まぁ悪い人間じゃないので、なんとも憎めない。
「あの・・・早くしないと日が暮れてしまいますよ?」
扉の外、空の傾く太陽を眺めながらケルヴィンが私をつんつんと小突き、尋ねる。
「その通り。だから今日は宿に泊まって、明日の朝改めて、だよ。」
まだ日は高いとは言え、おそらく今から登れば山頂に着く前に日暮れだろう。
「君の急ぎたい気持ちも分かるけどね。」
魔物でなくても、危険な野生動物は多い。夜はそれだけで危険なのだ。
「ほら、鍵。二人だし2階の一番奥使えや。」
ぽい、と部屋の鍵を雑に投げてくるバート。
それは客に対する態度なのかなとも思うけど、私たちの間柄だからという事にしておきましょう。
「ありがと。」
良いスナップコントロールで投げられたそれを難なくキャッチし、私はふと店の違和感に気づいた。
「そういえば、エーミルは?」
バートの息子で今年たしか17になる青年で、いつもなら店の隅で小難しそうな本を読んでいるエーミル。その姿が見当たらない。
「ああ、あいつは山狩りに出てるよ。」
山狩り。あまり聞き慣れないワードだ。
「魔物?」
「まぁな。」
少し歯切れの悪い答えが返ってくる。
「あんなヒョロヒョロの子よりもゴリラのあんたが行ったほうがいいんじゃない?」
これは先程の仕返し。
「・・・まぁ、俺は店があるからな。」
意にも介さず、棚の整理を始めるバート。その動きも、やはり少しぎこちなかった。
「ふーん。ま、休ませてもらうねー。行くよ少年。」
半ば無理矢理にケルヴィンを服ごとひっぱり、私は鍵に書かれた番号の部屋を確認しながら階段を上がる。
みだりに首を突っ込む理由もないだろう。
リバース・フロンティア - Rebirth Frontier - 純華(Sumika) @sumika0624
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