最終話◇祭りの夜、白蛇女王国
満月を描く疑似月光。星の輝きにも照らされた明るい夜。
集まった客は様々な種族、そしてこの街の住人の探索者達。
俺とサーラントは舞台の袖から様子を見る。
ドルフ帝国からはシュトール王子と
ドワーフ王国からはディレンドン王女と職人軍団『穴堀一徹』とレジオンス=
エルフ同盟からは
エルカポラとパルカレムと同じ巣から来た
ドルフ帝国の多種族連合軍に参加してた種族からは、カゲンの知り合いとか、グランシアの故郷の一族、ディグンの同郷とかも来てるので、
アルムスオンの種族博覧会のようだ。
かなりの人数でテーブルとイスを人数分用意できないので、敷物をしいて草の上に座ってもらっている。
全員が配られたライトを手に持っている。
今後、ドワーフ王国に作り方を教える予定のゼンマイ式ライト。
片手で持てるサイズで色つきの透明板を重ねて、様々な色の明かりを点ける。
このテクノロジスが珍しいようで、これだけでも盛り上がっているようだ。
赤、青、緑に紫と様々な明かりが夜の中に灯る。
俺とサーラントは今回、出番は無い。何かあれば援護に回る裏方に努める。
舞台監督は
シノスハーティルの宣戦布告でも臨時の舞台監督をしたんだが、そのときにいろいろ改善点やアイディアが出たようで、今回は張り切っている。
「演出のおもしろさが解ってきたような気がしマス」
セプーテンの指示でステージに明かりが点く。
「デハ、初めまスヨー!」
ステージにはその後ろに暗い赤色の垂れ幕を下げて、その後ろには
セプーテンの合図で演奏が始まる。
客席からは見えないようにして音楽を奏でる。
竪琴とギターをメインに新型の金管楽器、横笛やボタン操作式のラッパが、軽快な音楽を奏で、集音器を通してステージ両脇の拡音器から流れる。
その拡音器の横、ステージ両脇にパラリと垂れ幕が下りる。
左は竪琴を奏でる
どちらも
ミュクレイルが右手に紙、左手に集音器を持って深呼吸してる。そろそろ出番だ。うん、と頷き俺を見て、
「行ってくる」
「がんばれ」
青い目隠しをつけたミュクレイルの背中をポンと叩いて送り出す。
ステージ脇からチョロチョロと出て、ペコリと挨拶する。拡音機からミュクレイルの声が流れる。
『皆様、ようこそ
ここで客から笑いが出る。
それってつまり、ミュクレイルと
笑って許されてる程度の可愛いものだろうけど。
『ここで改めてお詫びします。これからもご迷惑をおかけすることになるでしょうが、そこを寛大にお許しいただけるよう、お願いします』
確信犯か、まぁ、他の種族の違うところ、蛇体では無い足とか触りたがる
触っていい? と聞いて相手が戸惑ってるうちにペタペタ触ったりしたんだろ。
プラン様のときもそうだったし。
『我らが女王の挨拶の前に、
ステージ左右から現れるのは白銀色の全長2メートル30センチの動く甲冑。
右と左から2機ずつ計4機が並ぶ。今回は盾は持ってない。
「「我ら
低い声の合成音声を響かせて、目をポウッと光らせる。
見てる男達が思わず立ち上がる。
なんだろうな
サイズダウンして作った玩具の
ステージに並んだ
ディグンとグランシアが教えた剣舞を披露。
このためにステージを大きく作ったのか。
メリュジンの伴奏に合わせて巨大剣を振り回す
見る目の有るのが見れば、
それでも滑らかに動く白銀の甲冑に、2メートルある巨大剣を振り回す
一通り演舞が終わると巨大剣を背中に吊るして、前に歩きステージを降りる。
ステージを守る警護の剣士として足を軽く開いて堂々と立つ。
パラパラと拍手が出て、
『続きましては、
客の中を
特に
このあたりはドルフ帝国の文化なのか、
グランシアとゼラファが新型剣ドスで演舞をして、その切れ味をアピールしたり。
舞台の裏からは
客達はそれを見ながら、テクノロジス食材でできたお菓子と酒を味わう。
演舞を終わらせて戻ってきたグランシアとゼラファとハイタッチ。グランシアが訊ねてくる。
「どうだった?」
「凄すぎて、客は唖然としてるみたいだ」
「ドリンはどうだった?」
「やっぱり剣を振るうグランシアはいいな、惚れなおした」
「ふふん、たまには見せ物やるのもいいね」
舞台上ではミュクレイルが再び集音器を口に近づける。
『それでは我らが
ステージの明かりが落ちる。と言っても月と星の明かりに、客は手にライトを持ってるので暗視の利かない種族でも大丈夫だろ。
セプーテンが指示を出す。
「音楽、『女王登場』スタート、初めは小さくゆっくりト」
赤い幕の裏で
静かにそっと入るように流れる音楽が、少しずつ音量を上げる。
「
ステージの上に青いライトに染められて、青い
演出のためだけに作られた無害な煙は、不思議な密度で白い流れる綿のようにステージを覆う。
「シャララ、準備ヲ」
「まっかせてー」
音楽が音量を上げて盛り上がっていき、
「昇降機作動、ライト班スタート!」
線のように細い明かりが
客の方もこれまで見たこと無い演出に、何が起きるかと期待してる感じ。
「送風機準備、女王登場に合わせテ、カウントダウン、3、2、1」
送風機が作動して重い
送風機が更に稼動、
「「おおおおお!」」
なんかもう、出ただけで客が盛り上がったな。
全裸に肩にかけた赤い飾り布はいつものとおり。頭には星石をあしらった銀のティアラ。
白い髪を腰まで流し、銀の刺繍入りの赤い目隠し。腰から下の白い蛇体はライトに照らされて鱗が光る。
蛇をあしらった銀の杖、今回は集音器を仕込んであり杖からはコードが伸びている。
ひらひらと赤いバラの花弁が舞い散る中、右手の杖をひと振りしてから顔に近づける。
『ようこそ皆さん、私の国へ』
シノスハーティルの落ち着いた声。
美しき
招待客達は静かに女王の声を聞く
『我らは
そのために地上のことには疎く、我らの住まう百層大迷宮が
小首を傾げるシノスハーティル。
『ほんとにビックリですよ。だって我らが住んでるところが、知らないうちに知らない誰かの物になってたんですよ? もう、知ったときには驚いたし怖くなったし。
でもそれも探索者の皆さん、ドワーフ王国、エルフ同盟、ドルフ帝国、いろんな種族の優しさに助けていただいて、百層大迷宮は
パチパチと拍手が鳴る。
『ここに
おおおおお! と盛り上がり立ち上がる探索者達。
知ってはいても改めて宣言が出ると、俺達がんばったなーって気分になるよなぁ。
『
百層大迷宮で発掘された、ミスリル銀の各種武器や防具のレンタルも気軽に利用してください。
また先程見ていただいた
只今、予約がいっぱいの状態ですが気長にお待ちいただければ、満足のゆく物を作ります』
そこをサポートした方がいいだろってことで。
あとは
ここの探索者が見つけたミスリル銀の武器防具の余った奴を、
これを新人探索者にレンタルしたり売ったりしてみようかってことに。
『百層大迷宮の財宝、魔晶石、精石、などの買い取りは新貨幣スケイルで行います。できたばかりで馴染みの無い貨幣ですが、今後はエルフの森でも使用できます。あ、
貨幣スケイルは
探索者の中には貨幣のすみに穴を開けてペンダントにしてるのがいるんだが。
ちなみに首にかけてる貨幣で、
それ貨幣の使い方と違うんだが、気に入られたんならそれでいいか。
『ここで改めて我ら
我ら
我らの瞳には魅了の力があります。
他の種族をとらえ捕まえる力です。
目隠し無しで
我らがこの目隠しをつけるのは、目を合わせた者の心を惑わすことなく、対等にお付き合いしたいという気持ちの現れです。
これを知っておいて欲しいのです』
初めて
『また、我らは地上の者と違い服を着ません。試しに着てみたんですけどね。この挨拶のときも、威厳を出すのに派手な衣装にしようか、マントでもつけようかって話もでたんです。
でも、着てみると肌にまとわりつくのって、落ち着かないんですよね。なんだかムズムズするし。
なので
聞いてみるとその方がいいって言ってくれる方も多いし』
客から笑いが出る。失笑の笑い。
そんなことを聞く
『このように習慣、風習なども違いますが、これからはさまざまな種族を迎え、仲良くしていきたいのです。
言葉を解する種族を知恵持つ者として、
知恵持つ者を食用の為に襲いません。
知恵持つ者を奴隷として扱いません。
知恵持つ者の加護神を、我らが神の兄弟姉妹の神として敬います。
アルムスオンに共に生きる同胞、その一員として』
ドルフ帝国の祖が唄った智者憲章。
多様な種族が手を取り合い多種族連合軍として集まった。
異種族喰いの習慣を持つ種族には嫌われているところもあるが、対
ドルフ帝国の理念であり、ドルフ帝国を中心に智者憲章を誓う種族は多い。
大草原周囲の種族間交流を進める原動力ともなった。
今後は
『
でもですね、シュトール王子にそう言ったら、そのときは鎧を着て欲しいとのことで、裸で戦争参加したらダメなんですか?』
小首を傾げて可愛く訊ねるシノスハーティル。
笑いが起きて中には、別にいいと思うーとか、是非そのままでーとか声が上がる。
シュトール王子とまわりの
杖を持って無い方の手を振って客を静めるシノスハーティル。
『今宵は、めでたき祭りの夜。私の国のさまざまな種類のお酒を味見してください。ちょっと実験作みたいのも多いんですけど、お気に入りのものがあれば教えてくださいね。
これで女王の挨拶を終わります。
皆さん
語り終えて微笑むシノスハーティル。
大きく拍手が鳴る。
これからここに探索者が増えることだろう。新たな種族間交流が増えることになるだろう。
問題も起こるだろうが、そんなのはたいしたことは無い。百層大迷宮は広くあらゆる種族に開かれて、多くの腕自慢が挑戦するだろう。
もともとが、誰が作ったか不明の過去の遺産。それを領土の中だから俺のものだ、と言い出したのが間違いだ。
その間違いの上に建てた嘘の橋、崩壊に巻き込まれて嘆いているのが地上にいるけれど、ずいぶんと時間をかけた自業自得というものだろう。
地上の方、
他の種族に押しつけずに、同族でやりあってもらうことに。自分達の問題は自分達で解決できるようになってもらわないとな。
とち狂ってまたこっちに来たら、遠慮無く叩き潰させてもらう。
百層大迷宮は
百層大迷宮は
そんな奴らが集まる
シノスハーティルが振り返り、舞台から袖に戻ろうとする。
この地の探索者のノリを知らない客は、これで女王の宣言は終わりと、酒と料理に手を伸ばそうとする。
ここに集まる者と交渉しようと、立ち上がる者がいる。
給仕の
悪いな、本番はここからだ。
これを見て早めに
ここに住んでる探索者達が、手に色とりどりのゼンマイライトを握りステージに駆け寄る。そのライトを振り回し、声を揃えて、
「「シーノーちゃーん!」」
「「シーノーちゃーん!」」
「「シーノーちゃーん!」」
「「シーノーちゃーん!」」
立ち去りかけたシノスハーティルが、気がついたというように、クルリと振り向いて、
「なーあーにー?」
「「可愛いねっ!」」
「ニコッ」
「「可愛いねっ!」」
「キラッ」
「「とーぐーろ! とーぐーろ!」」
「はい、とぐろー」
「「わぁーーーーーーっ!」」
なにが始まったのか解らずポカーンとしてるのが多い中、ほったらかしで盛り上がる探索者達と
裏方のセプーテンが指示を出す。
「第二部開始! ライブモードスタート!」
赤い幕がバサリと落ちる。
ステージを照らすライトが光量を増やし、明滅する。
赤い幕の裏から現れたのは、立体的にいくつもの太鼓とシンバルを重ねた装置。中心に立つのは4本腕の
「練習したのである! たぎる
4本腕を生かした激しいドラムソロが始まる。
ステージ脇に設置した台の上に白い道化服のようなキンキラ衣装をつけたパリオーが登場。手にする小さな集音機に声を上げる。
『ドラムはー、
パリオーの声に出て来たカゲンとアムレイヤが、集音器内蔵の新型ギターをかき鳴らす。テクノロジス製のテクノ・ギター。
アムレイヤは
カゲンは、うん、これは
下半身は黒いズボン、片方の太ももにドラゴンの刺繍。
上半身は裸。
『ベース!
ヤーゲンとファーブロンも色違いの飾り布でカゲンと同じ格好。
ヤーゲンはセクシー&スタイリッシュだけど、見た目少年のファーブロンはなんだか妖しい感じに。
『オルガン!
楽器は久し振りとか言ってたけど上手いじゃないか。
『サックス!
ドワーフらしくない派手な衣装で決めて、髭もリボンでまとめている。
裏方の手伝いしてる俺のところにシャララが来る。
「ドリン! やってやってー!」
「ほい、増幅」
「華やかに煌めいて! 魅力を増すのはシャララ達!」
『バックダンサー!
幻影系統の魔術を増幅して、20人に増えたシャララが赤い蝶の羽根をパタパタさせてラインダンス。
『そして皆さんお待ちかね!
「「シュド様ー!」」
「「優しく叱ってー!」」
金の杖を持って現れたシュドバイル。
色気たっぷりに微笑み人差し指を唇にあてて投げキッス。
「「わぁーーーーーーっ!」」
『続いて来るのはその娘!
「「ミュクたーん!」」
「「俺の妹ー!」」
銅の杖をクルクル回してから決めポーズするミュクレイル。
「「わぁーーーーーーっ!」」
『そして我らが女王! 最近の決めゼリフは『私、噛んで無いもん、わざとだもん』で、ごまかせるもんか! ほっこり族長! 銀貨のー、シノスハーティル!』
「「シノちゃーん!」」
銀の杖を頬にあてて笑うシノスハーティル。
『
「「わぁーーーーーーっ!」」
『1曲目から元気よく行くぜ! みんなついてこれるかー? 作詞、俺様パリオー! 作曲アムレイヤでー、『豪華絢爛、
♪にっこり笑顔で忍び込む
あなたのお財布に
いつかあなたのお役に立つの
だからそれまで
そばにいさせて
拡音器から大音量で歌と音楽が流れる。
レスティル=サハとシュトール王子は呆気にとられてるが、ディレンドン王女は満足気に頷いている。
いつの間にかコーチからプロデューサーになってた激流姫。
またなにかやらかすときは必ず誘うようにと、サーラントにしつこく言ってたっけ。
この後飛び入りで1曲歌う予定。
俺とサーラントも楽器ができたら、ステージに出演してたんだけどなぁ。
今は
曲が3曲目に入る頃には、
祭りはこれからだ。
ダンジョン税をぶっつぶせ!! ドリン&サーラント 八重垣ケイシ @NOMAR
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