第15話 魔人との決戦
賢者フローラが世界破壊術式を完成させている可能性があるため、僕たちは急いでミラル村が現在存在する鏡面世界へと抜ける魔法の鏡を回収しなくてはいけなかった。おそらくフローラは何食わぬ顔でミラル村のどこかで破壊術式を10年間構築しているに違いないのだから。
僕とアンとブレイはメルニッヒさんを再び訪ねて、フローラの日記を見せ事情を話した。
「結局魔人と決戦することになるのですね。魔人に王国軍が負けるか、あなた方がフローラを倒すか、どちらが早いかの勝負になりますね」
賢者フローラさえ倒せば、召喚した魔人たちは消え去るはず。
しかし、ミラル村に潜入するためには、対魔人結界を解除し魔人と闘わねばならない。
「犯人がわかったのだから、約束通りミラル村の名誉は回復してくれるのだろうな?」
とブレイが聞くと
「もちろんですよ、そうでなければ結界を解くのに反対者がでるでしょうし、ね」
魔人と戦いたくなかったから村は救う価値がないということにされていただけ
なのだから、魔人と戦うのであれば村は逆に救う価値がある、ということになる。
「ありがとうございます。メルニッヒさん」
とアンは感謝の言葉を言った。
「早速、国王陛下にこの真相を伝え魔人との決戦の準備を始めるとしますか」
メルニッヒは晴れやかな表情で言った。彼としてもミラル村に汚名を着せるのは心苦しかったのだろう。
「アクトくん、ミラル村に着いたら迅速にフローラを排除してください。時間が経てば経つほど王国軍に被害がでますからお願いしますよ」
「はい、お任せください」
と胸を張る僕。
憧れていたフローラの驚くべき悪行へのワダカマリも今はない。だって、10年前に地上から消え去った故郷をようやく復興できるのだから。
一抹の不安はある。もし鏡が壊れていたらミラル村には辿り着けない。だがそれは、ないはずだフローラはこの世界を滅ぼしたがっている。世界と鏡面世界の繋がりがなくなれば、ミラル村にいるフローラが世界を滅ぼすチャンスはなくなる。おそらく細心の注意を鏡の安全に払うはずだ。
賢者の塔に帰ったら、あの3人の冒険者にも話そう。フローラの元仲間たち。10年前メルニッヒから村を救う密命を帯びたものたち。今、ミラル村を救う密命を帯びている僕らと目的は合うはずだ。
彼らはフローラの所業を知ったらどう思うだろうか?元仲間がずっと世界を滅ぼしたいと思い続け、それだけを原動力に人々に優しく接していたと知ったら。滅ぼしたい一心で賢者の修行に打ち込んでいたと解ったら。
僕も似たような物だったのかもしれない。ミラル村が地上から消えたと知った時、僕の心は世界への恨み辛みにあふれていた。ただ一つフローラと僕を別けるものがあるとすれば、僕にはミラル村を再興したいという願いがあったことぐらいか。
僕の心はアンとブレイによって救われた。それによってミラル村の復興を願う気持ちを取り戻せた。
賢者フローラはあの冒険者3人によって救われることはなかったのだろうか?
賢者フローラと対面したら、まずは説得を試みよう。
馬鹿なマネはよせと。
フローラが魔人の召喚呪文を解除すれば簡単に問題は解決するのだから。
そのためにもあの3人の冒険者には来てもらわなければならない。
賢者の塔に戻ると僕ら3人は決戦に備え、お互いに語り合った。
普通なら英気を養うところかもしれないが、死ぬかもしれないのだ。
魔人が王国を滅ぼすスピードが速ければ、ミラル村は救えても王国は消え去る。
すべてが終わったらアンと村で結婚式を挙げることしようと話した。
ブレイは貴族のお嬢様に気に入られているらしいので、がんばれよと伝えたら、それは結婚相手としてではないよ?と笑われた。
でも、夜更かしは程々にしたよ。ミラル村の再興は僕らにかかっているのだから。
勇者と聖女が召喚できないっ! 〜大賢者アクトの苦悩〜 広田こお @hirota_koo
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