第14話 真犯人を知って

 僕は賢者の塔の一室にアンとブレイを呼んだ。賢者フローラが真の犯人だったことを伝えるために。彼女はどんなに酷くあたられても決して怒ることのない聖人のような人だった。今思えば、人を赦すかたわら、その人をそのように変容させた世界への恨みをさらに昂らせていたのかもしれない。


 賢者フローラはどこか人として不自然だった。決して人にあたることはなかったのだから。彼女の著作に魔人や世界の破滅をどう防ぐかをテーマにしたものが多いのは今思えば真に研究したかった世界破壊の方法の裏返しの成果だったのだろう。


 「魔人の召喚を防ぐ方法」「対魔人結界」「魔人の倒し方」「人魔戦争の古文書について」「世界破壊術式は10年かかる事実上不可能な悪行」などの数々の著作物。


僕はミラル村を救うためにこれらの本を熟読している。

とりあえず対魔人結界を張っているから世界は無事のはず。


だが、一点ひっかる。それは

「世界を滅ぼそうとしている人物がその対策方法を正直に伝えるだろうか?」

ということだった。


 なにか勘違いをしてないか?

 でも現に対魔人結界は10年間も有効に働いているし。そう、10年も、だ。


「10年??」


 僕はその時驚愕の真実に辿り着いてしまった。10年、世界破壊術式を完成させるのに必要な時間。


 世界はいま危機に瀕している。


 対魔人結界は、僕らを魔人から護るためのものではなく、世界破壊術式の魔法陣を僕らの手の届かないところで安全に賢者フローラが構築するためのものだったとしたら?


 魔人は彼女のガーディアンなのか?


 これは順を追って説明しないと納得してもらえないぞ?何しろ僕にしてもまだ彼女こそが世界に対する裏切り者であることを信じきれないのだから。


 信じたくない。


 だが、理屈では筋が通る。恐怖を感じる。なぜって、もう10年経ってしまっているではないか?


 これが本当なら、なぜ世界は滅んでいないのか?やっぱり僕の思い過ごしなんだろうか?わからない。やっぱりわからなかった。


 でも、この可能性をまず一番親しくしていた幼なじみの3人組で分かち合う必要がある。


「ブレイ、アン。賢者フローラさんのこと大好きだったよね?」

と探りを入れる。


「当たり前だよ!ミラル村の人でもないのに、汚名を被ってまで命を捨てて村を救いに行ったんだよ?私、フローラさんのためならなんでもできるよ。もう、いないけど……」

 とアン。


「素敵な人だったな、どこか危うい感じもしたけど。裏切り者をなぜ救う?と問いかけられた時、彼女『人を恨んではいけませんよ?』とだけ言って微笑んでいたっけか」


 ブレイはそう言ったあとにこう続けた。

「アクトお前顔に出ているよ。フローラさん。悪人だったんだろ?気にすんな、世の中そんなもんさ。皮肉なものだな恩人と恨むべき人を取り違えていたとは」


大臣のメルニッヒさんと賢者フローラのことをブレイは言った。


「アン、ショックかもしれないけど、フローラさんの日記を読んでみて?」

と納得がいかない様子のアンに賢者フローラの日記を手渡した。


しばらくするとボロボロと泣き出すアン。

僕らはしばらくお通夜状態だった。


だが、まだ僕は世界が今まさに滅亡に瀕していることを彼らに伝えていない。


動揺が落ち着いたころ。

「言いづらいのだけど、ミラル村も僕らも無事では済まないかもしれない」


と世界破壊術式のことを説明する。魔法陣が効力を起動できるようになるまで10年の歳月がかかること。


そして10年経ってしまったこと。


ひょっとしたら、賢者フローラは僕らを脅してくるだろうか?いつでもあなた方を消し去れるのですよ?と。


僕はいつも微笑んでいたフローラさんが、同じ調子で

「世界を滅ぼしてあげますね?」

と優しくいうのを想像し、戦慄した。


「なぁ、本当の恩人。つまり大臣のメルニッヒさんにこのことをまずキチンと報告しないか?何か手立てを考えてくれるかもしれない」

 ブレイは提案する。


僕もアンもブレイの提案に賛成だった。まずは対魔人結界を解かなければいけない。

そうしなければ、結界のなかの世界破壊術式の魔法陣を消し去ることができないから。


そのためには王国の協力が必要だった。























































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