第13話 賢者フローラへの憧れ

 ただ一人冒険者の中で村を救いに行き帰らぬ人となった賢者フローラ。

僕は彼女の肖像画を部屋に飾っている。大賢者となる苦しい勉強を頑張れたのも一重にフローラさんへの憧れがあったからだ。


 僕も立派な賢者になり、いつか故郷のミラル村を救う。


現在ミラル村は対魔神結界の中の一枚の鏡の中にあるはずだ。

当然対魔神結界の中に入らなければ、鏡の回収はできない。


魔神から逃げ回りながら、どこにあるかわかりもしない鏡を回収するなんてどう考えても無理に思える。


探索呪文と瞬間移送系の呪文で取り寄せるしかないだろうが、結界の中の探索をするには、結界を破らざる得ない。つまり、なんとか張ることに成功した対魔神結界を破壊することになってしまう。被害もでるだろう。


「賢者フローラさんなら、こんな時どうしただろうか?」


 僕は賢者フローラさんの遺品を集めている。

読むのはずっと気が引けていたが彼女の書いた日記もなんとかして手元に置くことに成功している。彼女の著作物は全部目を通した。日記を除いて。


 だが、ひょっとしたら日記にこそ真の手がかりが書かれているのかもしれない。

って考えすぎだろうか。憧れの人の秘密を無理やり暴くような真似はしたくなかったから、避けてきたけど。


「読んでみるか?」


 日記を開いた。そこには彼女の日常、悪態、秘密、恋話などが書いてあった。僕は罪悪感に囚われた。そして、そっと日記帳を閉じる。


 が、その時日記帳の異変に気づいた。微弱だが魔力を感じたのだ。感知の魔法を使うとパスワードによるカモフラージュが施されている日記帳だとわかる。つまり、僕がみた彼女の秘密より、さらなる深淵があるということだ。一体賢者フローラがそこまでして隠したかったものはなんなのだろうか?


 だがパスワードがなければお手上げだ。このままでは村を助けることなどできない。ミラル村がない世界など、僕たち3人にとっては空虚な滅んだ世界と変わらない。


「あーもー、お手上げだ!世界なんて滅んじまえ!」


と悪態をつく。


その時だ。


 賢者フローラの日記帳に魔力の異変を感じ、もう一度開くと、パスワード「世界なんて滅べ!」で保護された内容が僕の目に入る。


「そうか……。僕の憧れすらも、空虚なものだったのだな」


 僕は賢者フローラがミラル村を救いに行ったと勘違いしていた。


 実のところ彼女こそがすべての元凶だったのだ。日記帳には彼女の幼い頃からの世界への恨み辛みが書いてあった。彼女は不幸な生まれであった。彼女は裕福な商人の娘だと幼少期を語っていたが、実のところただの奴隷だった。


「私はご主人様には逆らえない。ご主人様も他の人もみんな私を昔、邪険に扱ってきた。誰も恨めない。恨んではいけない。お仕置きをされるから。でも、何かを恨みたい。壊したい。そうだ!世間が悪い。社会が悪い。誰も悪くない。だって世界はそういう風にできているのだから、あの人たちは、ああならざる得なかったのだ。だから恨んではいけない」


と書き殴ってあり、その後大きな字で。


「こんなにも残酷な世界は滅さなければならない」


と書いてあった!


 なんてことだ!憧れのひとが魔人を召喚していただなんて。

僕はあまりのことに茫然とし混乱して最後は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。




























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