第12話 希望

 僕たちが席につくと大臣は「説明」をはじめた。

「ブレイさん、あなたが実直な良い若者なのはわかりますよ?しかし国家運営はそれでは上手くいきません」

メルニッヒはブレイに言い聞かせる。


「仮にです、ブレイさんが私ならどうしましたか?」

とブレイに訪ねた。


「少なくとも村に濡れ衣を着せるような真似はしないさ」

と吐くようにブレイは言い捨てた。


「その場合、軍の兵士はどう動きますか?」

「当然、村を救いに兵士は戦いに向かうだろうよ?」

「勝てますか?」

 と冷静に言うメルニッヒ。


「勇者と聖女なしでは勝てないですよね?いたずらに損害が増えます。それを兵士達にどう説得しますか?この場合ミラル村は『助ける価値のない村』になってもらうしかないのです」

「でも十年もたったら名誉ぐらい回復しても……」

「十年経っても同じです。下士官や兵士をどう説得するつもりですか?魔人に略奪される村を心情的に見捨てられる人間はそうはいません」


「……俺はそれでも故郷が裏切りの村と言われるのは耐えられない」

とブレイは細い声で言う。


「私だって贖罪の気持ちがないわけではない。だから、アクトくんは無駄遣いが多かったけど、見逃してあげてたんですよ?」

 とメルニッヒは優しく声をかける。


「あなた方にミラル村の名誉を回復するための極秘予算を割り当てましょう。十億グレアは上手く処理しておきます」

 と続ける。


「あなた方の任務は真犯人を見つけることと、この世界にある、鏡面世界への入り口である魔法の鏡の回収です」


アンは表情をこわばらせて、何も喋れずにいる。

(アクトくん。結局、村の人は生きているってこと?十年弱も会ってないのに?)

(ああ、鏡の中の世界で生きているはずだ。ただし、鏡が見つからなければ、会うことはできない)

(鏡が割れていたら!)

(ごめん、そんなことは考えたくもない)

(そんな!!)


結局、大臣は僕たちに、十億グレアの借金をチャラにした上、さらに十億の極秘予算を割り当ててくれた。


そうか僕はめちゃくちゃな賢者だけど、大目に見てもらっていたんだな。とようやく今までの待遇に合点がきた僕。


「アクト、ごめんな俺とりみだしちまって」

「ブレイくんは悪くないよ!私だって冷静ではいれない。鏡が割れてたら、結局もう村の人たちには会えないんだもの」

 それに大臣はたとえ鏡を見つけても本物の勇者と聖女が現れるまでは村の名誉は回復できないと僕たちに釘を刺した。

 全部お見通しだったってわけだ。

「アクト、本物の勇者と聖女を早く召喚してくれよ?頼むよ?」

と珍しく弱気なブレイ。


「あと真犯人だな?これもわからないと村の名誉復活はない……」

僕は頭をかかえた。

だって本当にどうやってもどうやっても勇者を召喚することはできなかったし。

何をやっても何をやっても聖女も現れなかったからだ。


「とりあえず、村の跡地に向かってみないか?なつかしいミラル村に。鏡がみつかれば、こっそりと村のみんなと会うことぐらいはできるさ」

と二人に提案する。

「十年ぶりの再会か、俺の家族、それと、みんな元気かな?」

「私の両親心配してないかな?」


ひょっとしたら、ものすごい低い確率で十年間野ざらしの鏡が割れていなければ、僕たちは村の人たちに会える。


少なくとも確率はゼロではない。


「なぁ、ブレイにアンちゃんとりあえず今日は宴会を開こう!お金はたんまりせしめたし、それぐらいしてもバチは当たらないだろ?」

「賛成!!」

「ああ、誰かさんのせいで違約金がっぽり取られたからな。全部奢ってもらうぞ?」


そう言って僕たちは王都の歓楽街へと乗り出した。

嫌なことは全部忘れたい。

それに少しだけ希望は見えている。


だから今日は最高に優しくて嫌味なあの大臣の金を思いっきり使わせてもらおう。

僕たちは一晩中、一生懸命カラ元気ではしゃぎまわった。























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